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44 風斗の決意

風斗視点です

 生まれたのは墓堀本家の遠戚でも末端の家だった。

 二歳上の姉の七緒と風斗は実の両親の記憶が曖昧だ。それもそのはずで、風斗が生まれてすぐに両親は事故でこの世を去った。

 生き残った二人の姉弟を引き取ったのは伯母の蝶子だった。

 蝶子はその時点で二十八歳。その若さでよく二人も子どもを引き取ったと思う。


 七緒と風斗は蝶子が住み込みで働いている墓堀家の離れで暮らすことになった。

 そこには蝶子が仕えている墓堀家当主の後妻である桜子様がいらっしゃったし、桜子様の一人息子の瑞祥様がちょうど二人と歳が近かったこともあって、歓迎された。


 七緒、瑞祥様、風斗の順で歳が並んでいて、使用人の子どもであるのに幼馴染のような関係がずっと続いた。

 瑞祥様は本家から疎まれていた。

 長男である国継様とは隣り同士に住んでいるのに、会うこともまれだった。国継様より自分たちの方がよほど瑞祥様の兄弟に近かったと不敬ながら思っている。


 妖精王の愛し子である瑞祥様は金色の目をするようになった。

 妖精王の目というらしい。光の祝福を使える瑞祥様が金色の光を出した後、目の色がしばらく変わるのだ。

 その目のことを知られると、跡取り問題で余計な争いが起こるかもしれない――そのため、それはごく身近な人間だけの秘密になった。


 桁違いの才能を持って生まれた瑞祥様は、十三歳で学校へ通う頃には精霊捕縛などの仕事に出るようになっていた。

 隣に住んでいる跡取りの国継様は危ない仕事を一切しないのに、瑞祥様にだけ大変な仕事が回ってくることに風斗も七緒も蝶子も腹の中では思うところがかなりあった。

 しかし、当主である瑞祥様の父親は瑞祥様が死んでもかまわない、ぐらいのことを会うたびに言っていたし、必死に努力しても働いても認めようとしない当主に苛立ちばかりが溜まっていった。

 そんな瑞祥様の味方でいたいと思った姉の七緒と風斗は、お互いの相性の良い属性の祝福を受ける努力を重ねた。七緒が火で風斗が風の祝福を得たのは幸運だった。

 風と火が合わさると攻撃能力を上げることができる。二人で瑞祥様の手伝いが出来ることがとても嬉しかった。


 そんな家に嫌気が差してもまったく不思議ではないし、跡取り問題のこともあったしで、瑞祥様は卒業と同時に沙織様と結婚して領地を出ていかれた。

 瑞祥様が領地外へ住まいを移してしばらくして、お嬢様の祝さまが生まれた。

 瑞祥様は生まれてくる我が子が『鍵』にならずに済む方法をずっと探していたけれど、それはムダに終わったそうだ。


 祝さまが生まれた日、産院の部屋に妖精王が現れたらしい。そこで名前を授け、さらに光の祝福までして消えたそうだ。

 それを瑞祥様から聞いたとき、風斗は舌打ちしたくなった。

 本家の当主となられた瑞祥様の兄の国継様には息子の楪様がいた。が、楪様は名持ではるけれど、精霊が名前を運んできたため、光の祝福を得ていない『ただの名持』なのだ。

 片や、次男である瑞祥様の娘の祝さまは妖精王が直接名前を授けにきた『妖精王の愛し子』になってしまった。


 国継様と瑞祥様のときの跡取り争いほどの事態にはならないかもしれないけれど、祝さまの祝福のことが知られてしまうと墓堀家の跡目争いに巻き込まれるのは明らかだった。

 瑞祥様もそれだけは何としても回避したいと思っておられた。自分が経験した嫌なことと同じことを娘に経験させてくないのは当たり前だ。

 風斗も七緒も蝶子も同じ気持ちだった。

 それほど瑞祥様の子ども時代は悲惨だった。


 祝さまが生まれてしばらくして、瑞祥様の母親の桜子様と父親の前当主が呪詛を受けて亡くなった。呪詛を受ける数年前に国継様は墓堀家の親戚一同の反対を押し切って、川渡家の長女を嫁に迎えていたから、国継様を早く当主にするために呪詛を放たれたのだろう、と誰もが思った。


 そして数年間は表面上静かに過ぎていった。

 瑞祥様は仕事でこちらへ戻ってきても家族を連れてくることはなかったし、次男という枠を越えることなく当主のサポートに徹していた。

 表向きの仕事はすべて国継様がしていたけれど、『鍵』の仕事はすべて瑞祥様がこなしていた。


 瑞祥様の仕事を手伝えることは、風斗にとっても七緒にとっても幸せなことだった。

 ときどき、領地外の家まで出かけて行き、瑞祥様が留守の間、こっそりと沙織様や祝さまの護衛をすることもあった。お二人は伸び伸びと暮らされていた。

 庶民層の出身である沙織様は、墓堀家の離れで暮らすより領地外で子育てをする方が気持ちも楽だろう、と言っていた瑞祥様の言葉が正しかったと思えるほど、お二人は安全で幸せに暮らされていた。


 そんな瑞祥様一家がこちらへ戻ってくることになったのは四年近く前だった。

 そのうち紹介する、となかなか祝さまには紹介してくれなかった。そんな中、祝さまが『化け鴉』に襲われ、瑞祥様が呪詛に倒れた。

 瑞祥様が抜けた穴は想像以上に大きいものだった。祝福持ちは風斗と七緒を含めて何名かいるけれど、仕事の出来る『鍵』は瑞祥様だけだった。

 連日、有馬さんや七緒と悪しき精霊の捕縛に駆り出された。ときおり、時間が出来ると祝さまの様子を陰から見守った。


 瑞祥様の一人娘の祝さまの最初の印象は、天真爛漫な子どもだなあ、と思ったことだった。

 光の祝福が祝さまをそうさせているのか、本来のものなのか、沙織様が領地外で育てたせいなのかはわからないけれど、とにかくいい意味で裏表のない子どもだった。


 瑞祥様の子ども時代と比べると、良くここまでねじれずにまともに育ってくれたと思う。

 呪詛で倒れているあいだは毎日仙境を訪ねていた。我が母である蝶子の選りすぐりの教師陣が付けられ、十歳前には有馬さんと一緒に簡単な悪しき精霊の捕縛や歪みの修正が出来るようになっていた。


 精霊たちは正直だ。

 好きなものは好きで、嫌いなものは嫌いだ。そこに曖昧さはない。

 精霊たちは祝を認めていた。そして、ひたむきに人の目がない場所であっても努力し続ける祝さまを風斗も七緒も認めるようになっていた。


 瑞祥様が目覚めたあと、やっと祝さまに紹介してもらえた。祝さまが生まれてから十年だ。ずいぶん待ったと思う。だから、護衛に立候補したのに、瑞祥様はちょっと嫌そうな顔をしていた。

 理由はわかっているから、まあ、仕方ない。

 それでも、祝さまが良く水の館へ行かれるので、火の祝福の七緒より相性の良い風斗が同行することが増えていった。


 祝さまはその特殊な生い立ちのせいなのか、領地内での一般常識がない。とんでもない知識があると思えば、知っていて当たり前のことを知らなかったりするので、ヒヤッとすることもしばしばだった。


 才能は瑞祥様譲り、思い切りの良さと人を大切にするのは沙織様譲り、と言ったところだろうか。

 祝さまは自分のことより家族や精霊を優先することが多かった。

 それに自分も含まれていると気が付いたときは、何とも言えない感情が溢れてきた。それと同時に、自分の護衛としての力量をさらに伸ばさないといけないと実感した。


 どこの世界に護衛のために命を捨てるようなお嬢様がいるというのだろう。


 本家のクソガキである楪様を連れて水の館へ行った帰り、襲撃に遭った。楪様が一緒だから襲われる可能性は低いと考えていたから、驚いた。

 黒い物体は悪しき精霊のなれの果て成れ果てだった。自分の意思すらなくなり、呪いをかけられ操られるだけの存在。これほどの呪詛が使える人間がまだ川渡家にいるとは思わなかった。


 祝さまを淡いの森へ引き戻し、応援が来るまで時間を稼ぐために前線へ出た。これだけの呪詛が領地内で発動しているのだから、瑞祥様が気が付くのはすぐだろうし、準備をして離れから四季の庭の滝へ出て、水の館を通り、淡いの森からここまでたどり着くまでの時間はかかっても十分から十五分程度だろう。


 その間、祝さまを守り切ればどうにかなる。


 そう思っていたのに、あのお嬢様は斜め上の行動を取った。

 聴いたことのない精霊の古語を口ずさみながら風斗を守るように前に出てきた。


 このおバカが、お前の頭の中身はポンコツなのか。


 と心の声が出なかったのは、祝さまの身体を取り巻いている光の量の異常な多さを見たからだった。

 小さい身体から血が流れていくように光が流れ出している。


「なんてことをなさるんですか!」


 死にたいんですか! と言おうとして、きっとこのおバカはそこまでは考えていないだろうと、飲み込んだ。


 祝さまが放つ光に消されていく呪詛が風斗の動きを可能にしてくれた。

 今、しないといけないことはこの機会を活かして、一撃を呪詛を放っている相手に放ち、祝さまを淡いの森へ引き込むことだ。


 態勢を整えた頃、後ろから瑞祥様の気配がした。


 助かった――。


 絶対的な安心感が背中から伝わってくる。

 祝さまを抱きかかえ、淡いの森へ飛び込んだ。


 祝さまが纏っている光が風斗の腕と太ももの傷を塞いだ。光が体内に入ってきて身体の中が焼かれるような感覚があって、驚いたけれど、それ以上に驚いたのは、祝さまの言葉だった。


「風斗さんは痛くないかもしれませんけど、風斗さんがケガをするたびにわたしの心が痛くなるんです」


 痛覚がないから、ケガをしても死ななければかまわない。

 そう思っていた風斗に、子どもの頃、瑞祥様がまったく同じ言葉を風斗に言ったことがあった。親子二代に同じことを言われ、目を見開いて目の前にいる敬愛してやまない主の娘を見る。

 祝さまが大切にする中に自分が入っていたことが純粋に嬉しくて、こんな場面なのに自分の幸せを噛み締めていた。


 光の祝福を使ったのか、さっきの精霊の古語の歌の影響なのか、祝さまの目は瑞祥様と同じ金色に変わっていた。

 美しい目だと思った。

 

 このまま何もなく終わってくれればいいと思っていたのに、精霊のフィートが祝さまをけしかけ、また薬を一気に飲み光を体内で溢れさせてしまった。


 失血で力の入らない身体を無理矢理起こし、祝さまを抱きかかえて淡いの森の外へ出る。森の外は呪詛が生み出す靄で覆われていた。

 今にも気を失ってしまいそうな祝さまを起こし、さっきの精霊の古語を歌わせた。

 そのたびに光が一気に祝さまの身体から放たれ、目を開けていることすら出来ないぐらい真っ白な視界に支配された。


 どれぐらい続いただろう。

 ようやく光が治まったときは、呪詛はキレイさっぱり消えていた。

 こちらへ向かって瑞祥様と有馬さんが走ってい来る。

 祝さまは安心したように自分の胸に頭を乗せてもたれていた。


 この後先考えずに行動してしまうポンコツ頭のお嬢様の護衛をしたいと、心から思ったのだ。

 瑞祥様の娘だからではない。祝さまをお守りしよう、いつか今日のことを返せる日がくればいい。

 風斗はそう思いながら腕の中で意識を失っている小さな身体を見下ろした。





 

 


 


 


いつも読んでくださってありがとうございます。


護衛の風斗の視点を入れてみました。

三人称なので、あまり違和感はないかと思うのですが、いかがでしょうか。


お気に召していただければ評価ブックマークを頂けるととても嬉しいです。

よろしくお願いいたします。



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