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42 襲撃(2)

「風斗さんっ!」


 淡いの森とゲートとの境界の森側から外を見た祝は、思わず叫んでいた。

 風斗が空から高速で向かってくる黒い物体を防ぎ切れず、腕や太ももの側面にぶつかり血が噴き出していた。風斗はその傷を見ることもなく平然として空を見上げている。


 そうだった、風斗さんには痛覚がない。


 血が流れている状態を見ても、早く止めないと失血死してしまう。

 痛みがなくとも、血がなくなって立っていられるわけではないだろう。


「木霊ちゃん、来てっ!」


 淡いの森に向かって祝が叫ぶと、浮いている木霊のうちの一つが傍まできた。

 通じるかどうかはわからないけれど、これしか方法がない。

 水の館へ楪を向かわせても迷子になるだけだし、ここで頼れるのは精霊だけだ。

 精霊たちは人の理に関わらない。風斗のためなら木霊だって動かないだろう。けれど、伝言ぐらいはしてくれるはずだ。


「木霊ちゃん、土の精霊王に伝言をお願い。『お父さん、淡いの森で襲撃です』」


 祝が寄ってきた木霊を両手で包んでそう言うと、土の精霊王の館がある方へ押し出した。

 これで、土の精霊王から父へ伝言がいくだろう。

 それまで時間を稼がないといけない。


 足元に落ちた黒い物体が出す、黒い靄が巻き上がって風斗の姿すら見えなくなってきた。

 黒い靄は風斗の身体に絡みつき、動きを制限しているように見える。


 祝は息を大きく吸って妖精王を讃える歌を口にした。


「光の元、生まれし四人の戦士たちよ、四大精霊王となれ。光の力が及ぶ限り、土は木を育み、水は海の命を育み、風は命を運び、火は終わりを浄化する。光及ぶかぎりこの地を守る光の妖精王を讃えよ」


 水の館で練習したときとは全く身体の状態が違う。

 身体の中から堰を切ったように光が奔流し外へ流れ出すのがわかった。身体の中心から冷たさが広がり、指先が痺れだす。

 それでも祝は歌うのを止めなかった。


 歌い続け、光が身体の外へ流れ出すと、それに引き寄せられるかのように精霊たちが集まりだす。

 祝を中心に光が膨れ上がった瞬間を外さず、淡いの森から風斗のいる場所へ出た。


 足元から立ち上っていた黒い靄は、祝が歩くごとに浄化され消えていく。

 そして、風斗の前に出ると、風斗を絡めとっていた靄もすべて消えていった。

 飛んでくる黒い物体も祝に届く前に光によって消されてしまう。

 これなら、風斗が態勢を立て直すことができるだろう。


「祝さま、なんてことをなさるんですか。こんなに光を出して」


 風斗が痛々しそうに祝を見るので、同じ顔をして風斗を見返した。


「同じ言葉を返しますよ。風斗さんは痛くないかもしれないですけど、あなたに傷がつくたびにわたしが痛みを感じるんですよ」


 風斗は目を大きく開いて祝を凝視したあと、すぐに態勢を立て直し、黒の物体が放たれている方向へ視線を向けた。


 祝は冷たくなる身体が重く頭がぼんやりしていくなかで、父から渡されていた薬が入った小瓶を取り出した。


 えっと、こっちが身体が冷えたとき用だったよね。


 楪対策に渡されたものだったけれど、祝も水の精霊王から飲まされたことがある。妖精王を讃える歌を習い始めたときに、光のコントロールが上手くいかなくて、身体が冷えたときに飲んでいたのだ。


 あのときはティースプーン1杯程度だったけど、いいのかな、全部飲んで。


 祝はキュポンと小瓶の蓋を開け、喉にそれを一気に流し込んだ。


「うひゃっ」


 飲んだとたん、身体じゅうに熱が広がりそれを抑えることができない。

 光が渦になって祝の身体じゅうを暴れ回っているようだった。


「まさか、全部飲んだんですか!?」

「飲みましたっ」


 風斗に祝が答えると、隣りから小さく舌打ちが聞こえる


「体内の光の量が増えすぎているんですよ、さっきの歌を思いっきり歌って身体の中の光を出してしまってください」


 祝は言われたとおりに、妖精王を讃える歌をもう一度歌い続けた。

 歌うごとに身体の中の熱が放出され、落ち着いていく。それと比例するかのように祝の周りが光で真っ白になった。


「ああ、もう大丈夫です、祝さま。瑞祥様が来られましたよ」


 風斗がそう言って身体に纏っている緊張を緩める。

 祝も後ろを振り返って光の先に父の姿を見つけた。


「待たせた、風斗、祝、下がれ」


 父はそう言うと一緒に来たのか、有馬と共に飛び出して言った。

 祝は風斗を引きずって淡いの森へ戻った。


「風斗さん、早く止血しないと」


 祝が風斗の太ももにある傷に触れようとしたとき、祝の身体から放出された光がその傷に飛び込んでいった。

 風斗が「うわっ」と声を出し、身体を仰け反らせる。


「風斗さん!?」

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで」

「あ、でも血は止まったみたいですね」

「闇に付けられた傷だったからさっきの光に焼かれたんでしょう。もう傷はありませんよ」


 それを聞いてホッとした祝が腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

 視界の端には土の精霊王と一緒にこちらへ向かってくる楪がいる。

 ああ、もう大丈夫そうだ。


 祝が眠くなるように意識を手離そうとしたとき、耳元で声が聞こえた。


「ほう、良いもの見ちゃった。妖精王を讃える歌を歌える人の子がいるなんて感激だなあ。光の量も良かった。やっぱり美しさは生死の狭間にあるよね」


 祝はその声に驚いて、意識を取り戻す。目の前で祝を覗き込んでいる顔があった。

 真っ白な髪に真っ白な肌で、青い目をしている。10歳の祝と変わらないような年齢に見えるし、身長も同じぐらいだ。


「誰ですか、あなた」


 祝はフラフラする頭を上げてその精霊に尋ねる。

 精霊はクルクルと祝の周りを素早く周り、気取ったお辞儀をした。


「僕はフィート。風の精霊で精霊一の歌作りさ」


 







いつも読んでくださってありがとうございます。


やっと、フィートが出せました。

よろしくお願いします。



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