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41 襲撃

 呆然としたまま座っている楪に水の精霊王は微笑みかけた。


「ねえ、楪。祝ちゃんは何でも持っているように思えるかもしれないけれど、それは自分で努力して手に入れたものも多くあるのよ」


 祝は体内にある光の量が多いから、精霊たちは生理的な反応で祝のことを好ましく思う。

 けれど、それと祝を手助けしてやりたいと精霊たちに思わせるのは別物だそうだ。


「祝ちゃんはここで精霊たちとの信頼関係を勝ち取ったのよ。父の瑞祥が倒れてからも毎日この館を訪れて、淡いの森では精霊捕縛の練習を有馬と続けていたわ。小さな歪みであれば最果ての地へ有馬と一緒に行って修復することもあったの」


 父が呪詛に倒れていた三年間のことを水の精霊王がしっかりと把握していることに祝は驚いた。

 水の流れのような青銀色の長い髪をかき上げた精霊王は、楪の顔を覗き込んだ。


「知らない場所に来てすぐに父親が倒れて、理解できない精霊たちに囲まれても祝ちゃんは腐らずに前だけ見て頑張っていたわ。泣くことも、誰かに文句を言うこともせずにね」


 水の精霊王は手のひらを上に向けて、何か小さく呟く。手のひらの上には小さな黄色い花が一輪現れた。


「これはポリニーという花なの。仙境に咲いている花で今日のお茶にも使われているわ。見つけるのが難しくて花に意思があるから、見つかりたくないと思えば絶対に姿を現さないの。だけど、この三年で水の館の周りはポリニーだらけになったのよ。祝ちゃんがいつでも詰める様にって花が自分で増えたの」


 父が水の館で沈んでいる間、泉にポリニーの花を入れいていた。

 ポリニーには心を穏やかにする作用があるから、呪詛で心が檻の中に囚われていた父に少しでも助けになるなら、と祝が精霊王にお願いして摘むのを許可してもらったのだ。


 花に意思があるとは思わなかった。

 父が目覚めた後でポリニーにお礼を言ったとき、祝の言葉を受け取ったかのように一気に咲いたから驚いたけれど、そういうことなら理解できる。


「その間、楪は何もしていなかったでしょう? 自分の中の光の量が少ないことを諦めてしまっていたのではないかしら?」


 水の精霊王はポリニーのお茶のティカップに手を伸ばすと、一口、口に含んだ。

 それを味わうように目を閉じて「んー、生き返るわあ」と呟いた。


「理不尽な環境も、どうしようもない性質もすべて楪のものなのよ。それをこれからどうするかは楪自身じゃないかしら」


 ずっと黙ったまま話を聞いていた楪は、水の精霊王と同じようにポリニーの入ったティカップを持ち上げて、そっと口を付けた。

 腐ってもお坊ちゃまなので、楪の所作は優雅だ。

 こういうところは付け焼刃のお嬢様演技の祝にはないところだろう。


「美味しいです、本当に」


 さっきまでの苛立ちをどこかへ落としてきたように、楪は穏やかな顔をしていた。


 楪がちょっとスッキリした顔をしたので、そろそろお暇することにした。

 楪はちょとだけ照れたような顔をして、水の精霊王にまた来ます、と言っていた。祝福を受けることができる体質になるのはまだ難しいだろうけれど、仙境へ入っても大丈夫なように少しずつ慣れていくつもりだと言っていた。


 水の館を出て淡いの森の中をゲートに向かって歩いていると、木霊たちが寄ってきた。

 ふわふわと漂いながら祝の前で浮かんでいる。

 やはりというか、なんというか、木霊の誰ひとりとして楪には近づかなかった。


 淡いの森と領地の境に来たとき、祝は油断していたのだと思う。

 楪に言いたいことを言えたし、楪も心の中を少しだけ出していた。

 無事に水の精霊王との対面が終わって、ホッとしていた祝は家に着くまでが旅行、と言ったスローガンをすっかり忘れていたのだ。


 祝は何も考えずに境界を先頭で抜ける。

 その瞬間、バシッ、と強い音がして目の前に透明な壁が現れた。それと同時に手首に痛みが走る。手首を見ると、父に着けてもらったブレスレットの石が割れていた。


「祝さま、後ろへっ」


 襟首を引っ張って風斗が淡いの森の中に祝を連れ戻した。

 それと入れ替わるように風斗が前に出る。風斗目がけて何か黒い物が飛んでくる。

 それが届く前に風斗が風を起こして打ち落としていた。風斗の風と黒い物体がぶつかるたびに爆発が起きる。

 爆発した黒い物体は小さくなって地面に落ちると、そこから黒い靄のようなものを立ち上がらせていた。


「祝、僕が行こう」

「やめてください、今、楪兄さまが出て行ったら風斗の邪魔になります」


 祝が止めると、ぐっと言葉に詰まったような顔をしたけれど、楪は諦めて下がってくれた。

 淡いの森の中から外を見ていると、黒の靄の量が増えていくのが分かる。風斗はその靄を風の祝福を使って飛ばしているけれど、視界が悪くなるほどに増えていた。


 黒の靄を消滅させないと、風斗がどんどん不利になる。

 だけど、これほどの靄を浄化する光なんて、なにがあるだろう。


「あ、アレがある!」


 祝は光を集める方法を思いついたものの、光に弱い楪が近くにいては使えない。

 楪になるべく祝から離れてくれるように、頼んで息を大きく吸い込んだ。



読んでくださってありがとうございます!


長くなりそうなので二つに分けました。

変なところで終わってしまってすみません。



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