31 領地案内
水の館から出た祝と父は、淡いの森を通り門を出て車に戻った。
車の助手席に乗り、走る景色を眺める。
「そういえばゆっくり祝を案内したことがなかったね。ぐるりと領地を回って帰ろうか」
父の提案に、もちろん、と答える。
祖父母の住んでいる南にある商業地区には行ったことがあるけれど、それ以外は地図を見るぐらいで出歩いたことがないのだ。
父が呪詛に倒れていたので、外出は最小のものに限られていたし、淡いの森と離れの移動も同じ道しか通ったことがなかった。
墓堀家の領地は東西南北と中央に分かれている。
今回、商業地区は知っているので、それ以外の案内を父に頼んだ。
最初に向かったのは商業地区のすぐ上にある中央地区で、ここは地方都市の中心といっていい。
学校や病院、公的機関がすべてここに集約している。中心地には伯父が執務を取る本家のビルがあり、その下の階が役所になっている。届け出などの種類を見ても、一般的な市役所と県庁が一緒になっている感じだ。
その周りには銀行や総合病院がある。病院の名前が『墓堀中央病院』と書かれていて、ちょっとびっくりした。
もっと縁起のいい名前はなかったのだろうか。
この病院は大学の医学部が併設されているらしく、基本的に領民は近所にある個人病院へいくらしい。そこで対応できない症状があれば、この墓堀中央病院へ紹介されるシステムのようだった。
学校は幼稚舎から大学院まである大きな建物で、祝たちが通ったときはちょうど初等部の帰宅時間だったのか、ランドセルを背負った祝ぐらいの歳の子どもたちが楽しそうに歩いていた。
「お父さん、学校にみんな通っているのにわたしはいかなくていいの?」
祝は13歳から学校へ通うと蝶子に説明されていたから、ここの領地の人がすべて同じようにしていると思っていたのだ。
「本家の子どもや『鍵』は中等部からの入学になるな。それ以外の子どもたちはみんなここに通っているんだよ。祝のように個人的な家庭教師を頼むのは非効率だろう?」
「それならわたしもこっちが良かったけど」
そう言ってみたものの、父は困ったように笑うだけだった。
「本家の子どもは言うなればロイヤルファミリーみたいなもんだろ?」
「それ、自分で言って恥ずかしくないの?」
ロイヤルファミリーが車に乗ってすぐ横を走っているとは思うまい。もし、ロイヤルファミリーに当てはめるなら、父は王子だったわけだ。それを考えると、余計に恥ずかしい。
「……子どもの頃はいろんなことに流されやすい。それに祝福を持たない『鍵』は守りが低いから安全面を考慮しても中等部からの入学になったんだよ」
子どもというのは突拍子もない行動を取ることがある。たとえそれが悪意のないものであっても『鍵』に対してケガをさせるようなことがあれば、それなりの罰を受けることになる。
そういったトラブルから『鍵』だけではなく、領民を守るためにもある程度の分別の付く年齢までは一緒に過ごさせないことになっているらしい。
学校の横には研究棟が並んで建っていた。
ここでは精霊の研究をしている人もいるし、医学的な研究機関もあるそうだ。祝に歴史を教えてくれている斑先生もここに研究室を持っていると聞いて、びっくりした。
こんな遠くからヨボヨボと来てくれてるなんて、大変。
もっとしっかり勉強しないと。
中央地区を抜けると、次は領地の北側にあるオフィス街だ。
ビルが立ち並び、祝にとっては一番身近に感じることができる景色かもしれない。
スーツを着た人や制服を着ている人が歩いているし、ときどき、小さいながらも食事ができような店もあった。
「墓堀家は結界で隠されているけれど、外部とまったく通じていないわけじゃないんだ」
墓堀家の領地内は約45万人が暮らしている。
領地内で足りないものは仕入れてくるしかない。だから、外部と取引する会社もあるし、逆に外部に支社を作って供給する会社もあるそうだ。
外部に支社を持つ会社のほとんどは墓堀家の親族が経営しているらしい。それが領地の収入源となるので、一族でこの地を守っているという感覚が強いのだろう。
西地区と東地区は住宅地になっている。
東と西の違いは、一般領民が暮らすのが西地区で、墓堀家の親戚筋や大手企業の役員たちが暮らすのが東地区らしい。
東地区の一番東側の丘の上に墓堀家の本家がある。西地区にはマンションやアパート、一戸建てがあり、一番西側は田んぼや畑、ビニールハウスがあり家はなかった。
東地区と西地区の一番の違いは敷地の大きさだろう。東地区は一区画が大きい。西地区は祝が元々暮らしていた家に近かった。
祝と父が離れに着いた頃にはすっかり暗くなっていて、早めに晩御飯を食べて寝るように、と迎えに出てきた蝶子に忙しなく追い立てられた。
次の日、離れには父と有馬、風斗と七緒が集まっていた。
午前中は家庭教師がくるので、授業が終わったあとでみんなが集まる部屋に行くと、それぞれが集めてきた情報をすり合わせを行っていた。
「それで何かいい方法があったのですか?」
祝が有馬に尋ねると、有馬は首を振った。
「土の精霊たちもフィートのことは良く分からないらしい。七緒や風斗も同じだ。だから、水の精霊王の案に乗るしかないという話をしていたんだ」
水の館で宴を開くという水の精霊王の提案が通ったらしい。
ということは、各精霊王が集まった場所で祝が歌を歌うことになる。
胃の辺りがもぞもぞして、思わず手で撫でた。
「課題の期限とかってあるんでしょうか?」
期限が決まっていて、それまでに歌を覚えないといけないというのはちょっと厳しい。
精霊歌は古い精霊の言葉で書かれているので、祝はまったく意味がわからない言葉の羅列を覚えないといけないのだ。
さらにそれに音階が付くので、1曲覚えたら1曲頭の中から零れ落ちる、という悲しいことになっている。
「精霊王たちがまばたきする間に祝さまは大人になるほど時間の感覚は違いますから、期限は気にしなくてもいいでしょう」
そう七緒が言うと、風斗が首を振った。
「身を守るためにもなるべく早く風の祝福を使えるようになった方が良いので、そんなに長くは待てませんよ」
「そうだな。最長で半年ぐらいか。それぐらいあれば祝も何とかなるんじゃないか?」
父は風斗の意見に同意しつつ、どうだ、と祝に顔を向ける。
「ヴィー様は教え上手なので、半年あればと思うけど……」
歌わないといけない妖精王を讃える歌、というのを聞いたことがないので何とも言えない。
「じゃあ、それで進めよう。水の精霊王との打ち合わせは僕が引き受けよう。祝は水の館に通って歌の練習と、その半年の間に失敗したときの次善策を用意したい。有馬さんと風斗、七緒はその方向で動くように」
父がそう言うと、三人は頷いていた。
どうしても風の祝福は必要らしい。
半年間の祝の予定が決まると、父は蝶子を呼び、祝の家庭教師のプログラムの組み直しを頼んだ。
読んでくださってありがとうございます。
墓堀家の領地がどんな風になっているかを紹介したくて、簡単に書いてみました。
大きさは550k㎡ぐらいの設定です。その面積に45万人なので比較的ゆっくり暮らせている感じです。
今日で投稿し始めて1か月です。
ありがとうございます。




