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27 蝶子の子ども

 蝶子が呼び出した2人の子どもは、父より一つ上の娘と一つ下の息子だった。

 正しくは姪と甥なのだけれど、小さいころから蝶子が引き取って育てているので、蝶子にとっても子どもたちにとっても親子という認識なのだそうだ。


「奥様と祝さまは初めてでございますね。こちらが娘の七緒、その隣が息子の風斗です」


 蝶子に紹介された七緒は蝶子を若くしたようだった。蝶子に比べると目が少し優しそうだけれど、厳しそうな雰囲気はそっくりだ。

 風斗は逆に血がつながっているのだろうか、と疑いたくなる程度には似ていなかった。

 明るい茶色い髪、鼻にピアスが付いている。垂れぎみの二重が中性的な顔を引き立てていたが、体格だけ見ると、父よりも有馬の方が近いぐらいガッシリしていた。

 いろいろとアンバランスな息子だ。


「初めまして『鍵』である祝さまにお会いできましたこと、光栄に存じます」


 姉の七緒がまず祝に挨拶をした。

 この家に来るまで母と祝が一緒にいる場合、先に祝に挨拶をする人はいなかった。けれど、この墓堀家の領地ではそれが当たり前なのだ。『鍵』が何よりも優先される。

 同じ『鍵』の中でも、当主、跡取りの楪、父、祝の順なので、『鍵』の中では最後だ。

 だから、挨拶の順番もその順序で行われる。最初は驚いたけれど、ここで暮らして数年が経っているので、祝も母も慣れたもので挨拶を受けた。


「初めまして、風斗とお呼びください。『鍵』であり瑞祥様のご息女の祝さまにお会いできて光栄でございます」


 弟の風斗が同じように挨拶をした。

 人は見かけではない。びっくりするほどしっかりした挨拶のできる人だった。


 蝶子は七緒と風斗を母と祝の護衛にしては、と提案した。

 それを聞いて、父は少し嫌な顔をする。


「そんな嫌な顔をしても諦めませんよ。せっかく祝さまにお会いできたのですから私が必ずお守りいたしますよ」


 だから、安心して捕縛でも呪詛でも受けてください、と風斗は笑った。


「こちらには信用できる人間が少ないのです。息子には興奮して暴走しないようにしっかりと言い聞かせますから大丈夫ですよ」

「蝶子の大丈夫がこれほど信用ならないと思ったのは初めてだ」


 父は目頭を指で揉むようにしていたけれど、風斗のことはそれなりに信用しているようだった。


 墓堀家の本家と違い、離れは人間が少ない。

 元々、跡取りでもない父に仕えてくれるような人が少なかったことと、伯父が川渡という力のある家から嫁を貰ったことで完全に力関係が決まったと思われたのか、利用する価値もないと離れていった人が多かったそうだ。

 それに父は結婚しても離れでは暮らさず、領地外に出たから余計に人が離れていったのかもしれない。


 七緒と風斗の仕事も有馬と同じ捕縛がメインらしい。

 本来であれば離れで暮らす本家の次男である父を補佐するために蝶子が育てたようなものなのだけれど、父がこっちへ戻ってこない上に、やっと戻ってきたら呪詛で3年も目覚めなかった。

 父に事後承諾で二人を付けるわけにもいかなかった蝶子は、ようやく子どもを紹介できてホッとしたようだった。


 蝶子さんはお父さんに味方を少しでも多く作りたいんだよね。


 蝶子の気持ちはすごく伝わってくる。厳しさの中に必ず優しさのある人だし、父の生まれる前からこの家にいるので、父のことも自分の子どものように大切に思ってくれている。父もまた、蝶子を家族会議に当たり前に呼ぶほど信用している。


「瑞祥さま、ご心配には及びませんわ。私が祝さまについて、風斗には奥様に付いて頂きましょう」

「姉さん!?」


 七緒がにっこりと笑い、風斗はこの世の終わりと言えそうな声を出した。


「七緒さんも風斗さんも捕縛が出来るということは祝福持ちなんですか?」

「ええ、私は火の祝福、風斗は風の祝福がございますよ」


 風の祝福は有馬も持っている。火の祝福は初めて聞いた。


「火の祝福を持っている人に会ったのは初めてです。いろいろと教えてください」

「もちろんでございます。けれど、祝さま、瑞祥さまはすべての祝福をお持ちですよ?」


 あ、そうだった。


 父は四大精霊の祝福を受けていたんだった。

 だけど、父は説明下手なので、他の人から教えてもらえるのは助かる。


「だけど身を守るなら風の祝福がいるでしょう? 祝さま、私と一緒に風の祝福を受けにいきましょう」


 風斗が一歩前にでて、風の必要性を訴える。

 確かに、有馬に教えてもらう『精霊捕縛術』でも風があればと思うことが良くあるのだ。

 水の祝福があるから、水を自由に使うことがある程度は出来るようになった。けれど、水分のないときはほぼ役に立たない。逆に風は空気さえあれば起こすことが出来るので、便利だ。


「まあ、風はいるだろうな。祝は水と土の祝福だから早めに風の祝福を受けた方がいいだろう」


 有馬は風斗の意見も一理ある、と支持した。

 

「そうですね。火の祝福も風があるのとないのとではずいぶん威力も変わりますから、先に風を受ける方がいいかもしれません」


 七緒も少し考えて、そう答えた。


「祝福って簡単にください、って貰えるものなんですか?」


 水の精霊王のときは勝手に祝福してくれたし、土の精霊王に至っては生まれた時に勝手に祝福してくれたらしい。

 本来、どうやって祝福を得るのかわからないのだ。


「そうですね。大抵の場合は課題が出されますね。それを通過することが出来れば祝福が頂けます」

「課題?」

「ええ、私の時は風の精霊を5分間同じ場所に留めることでした」


 風は動くものなので、風が留まるということは死を意味するらしい。もちろん、精霊を殺してはいけないからその場に留めるのはとても苦労したらしい。

 風斗の課題はそれだったけれど、有馬の課題は何だったのだろう。


「有馬先生は何だったのですか?」

「有馬さんやお父さんは墓堀家の直系で風との相性が良かったからね、課題はなかった」


 父がちょっと申し訳ない顔をしていた。

 父と有馬が直系なのはいいけれど、祝は直系には当たらない。ということは課題があるのだろうか。


「まあ、身を守るためには風が一番都合がいい。風斗と有馬さんに一緒に風の谷に行って風の精霊王に挨拶をしてきなさい」


 父が諦めたようにそう言うと、風斗は小さくガッツポーズをして、蝶子がそれを目だけで咎めていた。







いつも読んでくださってありがとうございます。


蝶子の娘と息子は祝福がないと瑞祥の手伝いができないと子どもの頃から聞いていたので、それぞれ祝福を受けるようになりました。


次は風斗と有馬と一緒に風の谷に向かいます。


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