26 家族会議
伯父が帰ったあと簡単な昼食を取り、両親、祝、有馬、蝶子の五人で家族会議を開くことになった。
祝たちがここで伯父と話をしている間に、蝶子と母は家の中にいる間諜を炙り出したらしい。
蝶子が怪しんでいた通り、こちらの離れの情報を流していたのは立花という若い使用人だった。
そういえば祝がここへきて間もないころに、祝への話し方が出来ていない、と蝶子に注意を受けていた人がいた。あの頃は祝も蝶子に立ち居振る舞いを直されることが多かったので、人のことまで気が回らなかったけれど、立花は蝶子の言葉を借りると、間諜だとは思えないほど仕事ができなかった、らしい。
なので、蝶子も最初は立花を除外していたみたいだ。
「不幸中の幸いなのかどうかわかりませんが、川渡へ情報が流れていたわけではなかったので少し安心いたしました」
結局、立花は本家の間諜だったのだ。
蝶子は母と一緒に立花を締め上げたらしい。どんなふうに締め上げたのかはわからないけれど、やり切った感のある二人の顔を見ていると、聞かない方がいいいのかもしれない。
「本家の人材不足は深刻なようですね。あんな者を間諜に仕立てるなんて」
立花がこちらの知らなかった情報までペラペラと喋ったことで、蝶子は呆れたようだ。
だけど、有馬はそれこそが罠なのではないか、と言った。立花にわざと流してもいい情報だけ与えていたのではないかと指摘した。
立花が本家の親しい使用人から聞いた話は、伯母が実家と仲違いしているということだった。それに何度か妹夫婦である瑠璃子の両親が楪を訪ねてきていたということだった。
その二つは相反する、と有馬と父は考え込んだ。
「楪と実家に近い妹夫婦と親しくさせるなら、実家とは仲違いしないだろう」
「全部がバラバラに動いているということはありませんか?」
蝶子の言葉に父は首を振った。
「百合子さんの妹夫婦というと川渡製薬の役員の花房か。大それたことをするような覚悟はないだろうが、知らずに兄の思惑通りに動かされている可能性は否定できないな」
有馬が考えるように顎を触っていた。
「どこまで伯父さんを信用していいのか、百合子伯母さんがどこまで関わっているのかがわからないもんね」
「そうだな、兄貴の言うことをそのまま信じるわけにはいかないだろう」
祝がそう言うと、父は諦めに似た表情を隠さずにため息を吐いた。
兄弟と言っても異母兄弟で、幼いときからほとんど接触がなく育ってきたのだから、父が伯父のことを信用できないのも仕方ないのかもしれない。
けれど、それは兄弟のいない祝にとって、少し寂しいことのように思えた。
「お父さんは伯父さんのことを信じたいと思わないの?」
「まったく思わないな。邪魔だと思われたことはあるだろうけれど、好意的な感情を感じたことは一度もないからね」
父は苦笑いし、有馬も蝶子も過去を思い出しているのか、肩をすくめた。
跡取りとして教育された伯父と、スペアキーのような存在だった父とでは祖父の扱いが違ったそうだ。
「これからどうするのかを考えないといけないな。まずは情報収集だな。川渡がどれぐらいの勢力になっているのか3年間離れていた僕にはわからない。有馬さん、信用できる人間を集められますか?」
「ああ、使って情報を集めてこよう」
「じゃあ、私は商業地区の情報を集めて来るわ」
母が実家周辺の話を拾ってくると手を上げる。父が少し嫌な顔をした。
下町である商業地区の情報はそこの出身である母の方が深く調べることができる。それでも心配なのだと思う。自分が狙われるなら対処もできるけれど、母や祝は父の弱みにしかならない。
「藍を付けるか」
「いいえ、それには及びませんわ。私の息子と娘を呼び戻します」
自分の守り刀の藍を母の護衛に付けようかと考えていた父は、蝶子の申し出にぎょっとした顔をした。
「あの二人が戻ってくるのか……」
「蝶子さんってお子さんいらっしゃったんですか?」
祝が蝶子に尋ねると、蝶子は、ええ、と笑った。
「正確には姪と甥になるんですが、妹が早くになくなりましてね。私が育てたのですよ」
父とは小さいころ、ここで一緒に育ったらしい。
使用人と主の息子という立場は蝶子によって守らせたようだけれど、伯父よりも兄弟に近かった、と父は言った。
「外部に出しているのですよ。ときどき報告に戻ってきておりましたから、あの子たちは祝さまを遠目に見ておりますよ」
「そうなんですか」
ここへ来てやっと慣れたころに父の暗殺未遂があったのだ。
周りのことなんてまったく見ていなかった祝は誰のことかさっぱりわからなかった。
「すぐに呼び戻しますからご挨拶させますね」
蝶子はそう言って連絡を取りに部屋から出ていった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
短めになってしまいました。
明日はもうちょっと長く書きますね。
次は、蝶子の息子と娘です。
よろしくお願いします。




