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22 父のために出来ること

 水の精霊王に四季の春の庭の滝まで送ってもらった祝は、一緒に戻ってきた有馬と一緒に墓堀家の離れに帰った。

 玄関に出迎えにきてくれた蝶子に有馬が、母と一緒に話が漏れない部屋を用意するように、と言った。


「それならば桜子様がお使いになっていた部屋がよろしいでしょう。掃除も入っておりますからすぐに使えますよ」


 蝶子は生前祖母が使っていた部屋に有馬と祝を案内し、そのまま母を呼びに行った。

 

 母は顔色は悪いものの、取り乱してはいなかった。

 そのことに祝は少し、驚いた。もっと、心配して質問攻めにあうのではないかと思っていたのに、まず、有馬に挨拶をして祝が世話になった礼を言った。蝶子も隣で同じように頭を下げている。


「瑞祥のことは心配いらない。しばらく時間がかかるだろうけれど、死ぬわけじゃない」


 有馬が笑いかけると、母もやっと一息吐けたのか、わずかに笑顔を見せた。

 有馬は蝶子と母に、父が水の館でどんな状態であるか、精霊王たちとどんな話し合いをしたのかを丁寧に説明していった。

 蝶子はときどき胸を押さえるように、手をキュッと握っていた。


「数年間……も目覚めないかもしれないのですか」


 父の受けた呪いがすべて癒しの水に溶けだすまでの期間を聞いた母は、眉根を寄せ、唇を一文字に結んでいる。

 父がいないあいだ、この家の責任者は女主人である母が預かることになる。

 いくら蝶子が祖母に仕えていたといっても、心細いだろう。それを見越したのか、有馬が口を開いた。


「瑞祥がいないあいだ、この家のことは私が責任を請け負う。瑞祥がしていた仕事は引き受けよう」

「それはとても助かりますが、有馬さんにご迷惑をおかけするわけには」


 母は頼りたくて仕方ないのだろうけれど、有馬に迷惑をかけたくないという気持ちも本音のようだった。


「ここは素直に甘えはいかがですか? 有馬様ほどこの家のことをご存知で、瑞祥さまのことを理解なさっている方はいらっしゃいませんよ」


 蝶子が助け舟を出す。

 その言葉に背中を押されたのか、母は有馬に、よろしくお願いします、と頭を下げた。


 有馬は祝にとって、曽祖父の一番下の弟だ。直系の子どもではあるけれど、有馬の母親は墓堀家の正妻ではなく、曽祖父が跡を継いだあとに生まれた年の離れた異母弟だそうだ。


 だから、年齢だけなら祖父より若い。父にとっては大叔父ではあるけれど、感覚的には叔父に近いのだろう。

 後妻の子どもである父と正妻ではない母親を持つ有馬は、分かり合えることが多いのかもしれない。


 父の状態は隠せる間は隠すことになった。

 伯父に気付かれると川渡の娘である伯母に話が筒抜けになる可能性がある。

 父がどこで癒しを行っているのかも、知られない方が無難らしい。


「では、瑞祥さまの状態も分からず奥様は取り乱しておられる、という噂を流しましょう。この離れにも川渡の息のかかった人間がおりますから、すぐに伝わるでしょう」

「そんな人いるんですか!?」


 祝が驚いて蝶子を見ると、困ったように目を伏せた。


「本来であれば、私が排除しなくてはいけないのです。ですが、この離れは長い間、主人不在でございましたから、立場が上の者からの命令であれば受け入れるしかなかったのでございます」


 父は仕事の後に離れに泊まることはあったけれど、住んでいたわけではない。母も祝も数か月前に来たばかりだ。

 前女主人である祖母が亡くなったあと、蝶子のことだ、独りで何年も出来ることはやってきたのだろう。けれど、それも使用人では限度がある。


「本家から人を使うようにと入れられた人間を毎回追い出すのは、なかなか骨の折れることでございましたよ。今、こちら側の人間ではない使用人は1人だけです。祝さまは立花を覚えていらっしゃいますか?」

「ごめんなさい、記憶にないです」


 立花は二十代前半の使用人だそうだ。

 ここへやってきたのは本家の紹介ではなく、何人もの紹介を挟んでいるのだそうだ。

 最終的に祖母の実家の使用人の孫だということで、ここで雇うことにしたものの、蝶子は立花が川渡の関係者ではないかと疑っているらしい。


「ですから、立花にはお気を付けください。庭に出るとき、特に水の精霊王にお会いになるときは側に近づけませんように」


 どこから父の情報が洩れるかわからない。

 祝は蝶子の目を見て頷いた。



 蝶子は情報の収集と偽の情報の流布。

 母は父が行方不明だと取り乱して落ち込む姿をときどき見せること。

 有馬は離れの管理と、犯人捜し。

 祝は水の精霊王と三人のパイプ役をすることが決まった。


 祝は父の沈んでいる癒しの泉に浮かべるポリニーの花を摘むために、毎日、水の館を訪れていた。

 春の庭の滝からばかり行くと、行き先が水の館だと分かってしまうので、淡いの森から土の精霊王に会いに行って、土の館にあるタペストリーから水の館に行くこともあった。


 土の館に飾られているタペストリーは、水の精霊王の髪にそっくりだった。滝が流れるような銀糸と青銀で出来ていて、それが水の館と土の館を行き来することができるドアみたいなものだ、と聞いたときはびっくりした。


 祝は土の精霊王の元で精霊についての勉強をしていることになっているし、水の精霊王のところでは元々、音楽を習っていたから、そう言えば疑う人はいなかった。


 毎日、ポリニーの花を摘み、父の沈んでいる泉に浮かべて声をかける。

 そんな日々が始まって3年が過ぎようとしていた。




 

いつも読んでくださってありがとうございます。


呪いで倒れた父のために、離れのメンバーは結束することになりました。

祝はそんな大人と精霊王たちのパイプ役です。


次回は、三年後のお話で父の目覚めです。


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