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21 父の受けた呪い 後編

川渡(かわわたり)一族って今までも呪いとか、そういうのをしてきたんですか?」


 祝は有馬に向かって尋ねたのだけれど、有馬と水の精霊王、土の精霊王の三人が口を揃えて「ある」と断言した。


「祝の祖父母である前当主夫妻もあの家の呪詛だったな」

「瑞祥だって今回が初めてじゃないもの」

「しかし、瑞祥は毎回返り討ちにしておったのではないか」


 三人は軽い口調で話している。

 有馬自身も川渡の呪詛を受けたことがあるらしい。


「墓堀家って呪われすぎなんじゃないですか」

「まあ、死ぬような強いのを放たれることは滅多にないから安心していい」

「滅多にってことは、たまにはあるってことじゃないですか。嫌ですよ、そんな家」


 身体をブルっと震わせると、有馬はニヤリと悪い顔をして祝を見た。


「嫌って言ってる場合じゃないぞ。川渡の今回の呪詛が瑞祥を仕留めきれなかったってことは、いずれ墓堀家の親戚筋にも伝わるだろう。そうなった場合、川渡の血を引く(ゆずりは)は跡取りとして不適格だと言い出す者も出てくる」

「でも、証拠はあるんですか?」


 いくら川渡家が自分の娘が産んだ楪を確実に跡取りにしたいからといって、そこまでするだろうか。

 だいたい、このまま順番に伯父が先に死ねば楪が次の当主になるのだ。楪が祝福を受けていないことがそれほど問題になるとは思えない。実際、今の当主の伯父だって土の祝福がないのだ。


「証拠なんていくらでも出てくるさ。瑞祥が生き残ったんだからな」


 有馬は祝に手を伸ばすと、頭をクシャクシャと撫でた。その撫で方が父を思い出させた。

 笑うと目元が父に似ている。父も歳を重ねると、有馬みたいになるかもしれない。


「ワシは瑞祥の様子を見て来るかの」


 土の精霊王が父の沈んでいる泉の部屋へ行くというので、祝たちも一緒に付いていった。

 泉の湧き出す大理石の中で、父は先ほどと変わらず静かに沈んだままだった。


「ふぅむ。(らん)が言っておったとおりじゃの」

「藍はお父さんに何が起こったのか見ていたのですか?」


 守り刀の藍は父をここへ運んだあと、土の館へ戻った。そこで土の精霊王に起こったことを詳細に語ったあと、回復のための眠りについたそうだ。


「瑞祥と藍は最果ての地の歪みを直しに行っておったそうじゃ」


 最果ての地は仙境の中でも草も木もない、岩と沼だけの場所らしい。

 負のエネルギーが瘴気となり、悪しき精霊を呼び、悪しき精霊は瘴気を産み出し……といった具合で数が減らないどころか増える一方なのだそうだ。


 最果ての地は墓堀家が『鍵』として管轄している範囲が決まっており、それ以外は他の国の『鍵』が修復を行うそうだ。

 今回、父が修復を請け負った場所はもちろん墓堀家の管轄地内で、いつものように空間に出来た歪みから悪しき精霊が外界へ逃げ出さないように、それを塞いでいたらしい。

 藍が歪みに寄ってきた悪しき精霊を追い払い、父が歪みを直す。その最中に、呪詛が発動したそうだ。


「ドレッシナ―の大群が向かってきたから、藍は手から光の鎌を出し、なぎ倒そうとして、一瞬、瑞祥が視界から消えたらしい。ドレッシナ―を消したあとで瑞祥を視界に捉えると、その背中に闇の矢が刺さっていたそうだ」


 ドレッシナ―というのは、この前、有馬が教えてくれた『精霊捕縛術』で手本で見せてくれたときに出した大型のコガネムシだ。

 一匹でもサッカーボール大だったのに、大群というのは想像したくない。


「藍は瑞祥に駆け付けて、抱き起した。その時に2本目の闇の矢が飛んできたらしい。その矢は藍の肩をかすったのじゃ。まともに受けなんだから動けたものの、藍は鉱石が媒体の精霊だからの、呪いは軽くはなかったのじゃ」


 それでも石を修理し、休ませれば元に戻ると聞いて、祝はホッとした。


「瑞祥の状態を見る限り、呪詛の半分は跳ね返っておるはずじゃ」

「どういうことですか?」

「闇の矢に貫かれて助かる者はおらん。それはワシら精霊であっても同じことじゃ。貫かれて身体に呪いが入り込んだのに、未だに呪いは完成しておらん」


 本来であれば、貫かれてすぐに全身に呪詛が巡り、心臓を止めるらしい。


「どうやら瑞祥は呪詛が来ることを想定して手を打っていたようじゃ。自分自身に術をかけていたんじゃな」

「そんな芸当が出来るのも瑞祥ぐらいのものでしょう。最果ての地へ行くのに力を分散させるなんて」


 有馬はため息を吐いて首を横に振った。

 全身の守護をする術は自分の持っている光の祝福の力の半分を使うらしい。領地内や淡いの森、仙境にいるときならば全身の守護をしながら、悪しき精霊を捕縛することは難しくないそうだ。

 ただし、最果ての地はそうはいかないらしい。

 元々、瘴気が多く、その場所にいるだけで体内の光の祝福が減り瘴気に飲まれやすくなってしまう。体内に残る光の量を調節しながら歪みを直さないと、周りの瘴気が体内の光の量を越えてしまうと命を落とすこともあるそうだ。


「だからこそ、呪詛が来るとしたら最果ての地だろうと瑞祥は思っておったんじゃろうな。呪いの半分は返しておるから、呪いをかけた人の子は今ごろ、瑞祥と同等かそれ以上の状態になっておる」


 土の精霊王は泉に手を入れ、水に流れ込む呪いを調べているようだった。

 その土の精霊王は眉を寄せ、難しい顔をした。


「お父さんはいつまでこの中に沈んだままなんですか」

「数年間はかかる。呪いを受けてすぐが一番ここの癒しの水が効くんじゃ。それなのに、瑞祥の身体から呪いが溶け出す量が少なすぎる。どうやら、この呪いの主は自分の命を代償に相討ちになる覚悟で放ったようじゃの。愚かなことを」

「数年間……」

「祝ちゃん、それでも瑞祥は元気になるわ。だから、落ち込まないで」


 水の精霊王は祝のことを後ろから抱え込む。精霊王たちにとっての数年はすぐかもしれない。

 けれど、祝は今年のクリスマスを父と一緒に過ごすことさえ、まだあと4日もある、と思ってしまうのだ。

 数年なんて、祝には想像がつかない。

 父の時間はここで止まったままだけれど、目を覚ました時に祝が大きくなっていたらガッカリしないだろうか。祝のことがわからなくなっていないだろうか。

 不安ばかりが胸を過る。


「命の代償を求める呪い、ということは瑞祥の精神が呪いの檻に囚われているということではないですか?」


 有馬は静かに土の精霊王に尋ねた。

 土の精霊王は、その通りじゃ、と肯定する。


「どういうことですか」


 聞かないと分からないことばかりだということが、こんなにも情けないことだとは思わなかった。

 祝は自分が何も知らないことを、ここで初めて悔しいと心から思ったのだ。

 いちいち、3人の話を止めなくてはいけない。祝が止めなければ、もっとたくさんの話が聞けるのに。


「瑞祥の身体が呪いを受けて動けないように、瑞祥の精神……心もまた身体の中の呪いの檻に入れられているということだ。瑞祥がその檻を壊さない限り、身体の呪いは抜けきらない」


 有馬の説明によると、父の身体と心が切り離されてしまっている状態で、心が檻の中に入れられていて身体と繋がることができないらしい。


「だから、どれだけ時間がかかるかは瑞祥次第なんだ」


 父が檻から出れなくて、心が折れてしまったら二度と目を開けないかもしれない。

 そう思うと、怖くなると同時に、さっき、精霊たちが祝のために入れてくれたお茶を思い出した。


「ポリニー! ポリニーの花をこの泉に入れてはいけませんか、ヴィー様」


 ポリニーのお茶を飲んた祝の心はとても穏やかになった。

 もし、それが父にも届くなら。

 期待を込めて水の精霊王を見上げた。


「そうね、何もしないよりはした方がいいわね。良いわよ。ただし、祝ちゃんが自分で見つけて摘んできた花だけよ。精霊たちが手伝うのでは、きっと、効果はでないわ」

「はい! ありがとうございます」


 祝は自分が出来ることが一つでも見つかって安心した。

 まだ、出来ることはある。

 有馬はそんな祝を見て笑う。


「じゃあ、俺は呪詛を放ったヤツを探すとするか。そっちは任せておけ、祝」

「有馬先生、ありがとうございます」


 祝はこれから先に進む方向が決まったことで、母や蝶子に説明がしやすくなった、と思った。

 あとは、どれだけ穏やかにあの二人に話せるかだけれど。

 話していいことをダメなことを有馬や精霊王たちと相談して決めなくてはいけない。母や蝶子が知ってはいけないこともあるかもしれないのだ。祝はここでの知識が少なくぎる。有馬に判断してもらうのが一番いいだろう。

 

 家で父の帰りを待つ母が心配する姿を想像して、目を閉じた。






いつも読んでくださってありがとうございます。


精霊王の祝福を受けた人は身体の中に精霊が好む光があります。

それは体力ゲージみたいなものだと思っていただけるとわかりやすいかもしれません。


次回は祝が父のために出来ることです。

明日もお付き合い頂ければ嬉しです。

よろしくお願いします。

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