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推しに他界を願われた話  作者: 良々城田 佳
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8/10

「陽向ちゃんも呼んでいい?」

 どうしてこうなった。


「陽向ちゃんは何飲む? っていうか今更だけど、お酒大丈夫?」

「あ~実は、あんまり……」

「えぇ! それならそうと先に言っといてよ〜」

「あ、でも気にしないで! 私、お話したくて来たから! ……むしろごめんね? 飲めないのに参加しちゃって」

「いやそれはいいんだけど。私も晴香も気にしないし。陽向ちゃんが大丈夫なら全然いいのよ」

「ホントごめんね。……晴香、冷蔵庫のお茶、もらっていい?」

「……」

「晴香?」

「あ、うん」

「どしたん? ホントさっきからずっとボーッとしてるよね」

「いや、別に……」


 ファンをやめると決意して、もうライブには足を運ぶまい、由唯に迷惑をかけまいと思っていたのに、何故か彼女は今、美紀と共に私の家に上がっている。




 話は、数時間前に遡る。




「美紀、なんか……オススメの趣味とかある?」

「なに急に? どうせ晴香の余暇は推し活でいっぱいなんじゃないの?」


 これまでならば確かにそうだ。でもこれからは違う。だからこそ、代わる何かを求めて趣味を聞いているわけで。


「うん……。推し活、やめようと思ってて」

「え!? なんでなんでどうかした!?」

「いや、まあ、なんとなく……。冷静に考えて自分キモいな、ってハッとしたっていうか……」


 そこまで驚くことだろうか、すごい勢いで美紀に問い詰められる。だが、現在唯一の友人と言っていい美紀にすら、本当のことを言うつもりはなかった。言葉を濁して、適当にはぐらかす。


「そんな過激な推し方じゃないし、晴香は全然キモくないほうだと思うけど」

「やめてよ、まるで他にめっちゃキモい人がいるみたいな言い方」

「いやいや、あくまで推し方の話だから。ま、でも今どき、推し活なんて流行り散らかしてるから、キモいとか言えないくらいみんなやってるよ?」

「そんな他の人がどうとかじゃなくて、これは自分の話だから」


 自分がやめたくて、いや、やめなければいけないと思って、行動しているわけであって、そこに世間一般の価値観は関係ない。というか。


「むしろなんで推奨派ムーブ?」

「別に推奨派ってわけじゃないけど……。無理してやめようとしてる気がしたから、もしそうならそこまでしてやめることはないって言いたかっただけ」

「……それはどーも」


 美紀はいい奴だ。そんな相手に嘘というか、隠しごとをしているのは気がひけるけれど、こればっかりは仕方ない。


「でさ、晴香の相談も含めてなんだけど」

「?」

「今日久々にさ、晴香ん家で宅飲みしようよ、どう?」

「……まあ、いいけど」


 ちょうど、バイト以外の予定がなくなって暇になったところだ。断る理由はなくて、美紀の提案を受け入れる。


「よっしゃ! あ、ちなみに陽向ちゃんも呼んでいい? ちょうど三人で遊びたいって話してたのよ」

「えっ」

「ってか、名前で呼び合う仲なのに連絡先も交換してなかったん? いくらなんでも人付き合いに興味なさすぎでしょ」

「いやまあ……」


 今のところ、美紀の前では名前で呼び合ったことはないが。一方的に晴香と呼ばれただけで、むしろこちらからなんと呼んでいいものかは図りかねている。恐らく、陽向と呼び捨てにするのが自然なのだろうが、そう呼んでしまうのは、遠ざけるべきの距離が近づきすぎているようで気がひけた。


「ま、いいけどさ。晴香のガードの固さなんて今に始まったことじゃないし。私とは仲良くしてくれてるのが謎だよ、逆に」

「美紀は勝手にグイグイ来たから……。あ、嫌だったとかじゃないけどね。本当に感謝してるし」

「うわ、慌ててフォローして怪し〜。絶対ちょっとウザがってたでしょ最初は」

「まあそうかもしれないけど、慣れたから何も思わなくなったし」

「そこは否定しろし!」


 憤慨する美紀に軽く謝りながら、本当はもっと醜い自分の本心を覆い隠す。

 これまでの付き合いで助けられたことは多いし、感謝の気持ちは本当だ。それは嘘偽りない。ただ、一緒にいて楽だと感じているのは、結局美紀のことを特別好きではないからなのだと思う。

 もちろん嫌いなわけではないけど、別に好きというわけでもないから、飾る必要がなくて気楽に接することができる。有り体に言えば、この関係がどうなろうとどうでもいいから、多少雑に扱える。逆に、向こうにとっても私は数いる友人の一人に過ぎないから、その点でもやりやすい。

 まあ、わざわざ気分を害したいわけではないから、多少の気も遣うし、こんな風に考えていることは本人に知られたくないけれど。


「って、違う違う。そんなことはよくてさ。で、呼んでいい?」

「……私の許可どうこうより、向こうの都合があるんじゃない?」


 美紀から見た私たちは、それなりに交流があって仲が良いということになっているはず。……お互いの連絡先は知らないけれど。

 とにかくそんなわけで、はっきりした拒否はしづらい。なんで? となること請け合いだ。だから、向こうに断ってもらうことにした。

 実際、"陽向"としてはどうか知らないけれど、"由唯"としてはそれなりに多忙な毎日を送っているはず。レッスンだとか身体のケアだとか、誘いを断る予定なんていくらでも作れるだろう。


「それは確かにね。こないだも合コンの人手足りなくてさ、ダメ元で誘ってみたら、案の定忙しいって断られたわ」

「それは合コンが嫌だったんじゃ……?」

「えー、でもめっちゃ謝り倒されたよ。また誘ってって言われたし」

「合コンに?」

「……普通に遊ぼう、とは言われたけど」

「ほら、やっぱり」


 由唯はかなりプロ意識が高い。そんな彼女が、大いにリスクのある場所へわざわざ足を運ぶわけがなかった。もう関係ないはずなのに、どこかホッとしている自分がいて、心の中でそんな自分を殴り飛ばした。


「そもそも、もう相手いるか。あれでいない方がおかしいもんね」

「……さあ、どうだろう」


 先ほどと同じ理由で、いるわけがないと思ってしまうけれど、それは私の願望に近いかもしれない。美紀の言う通り、あれだけ魅力的なのだから、モテるのはモテるに決まっている。その中で、誰か一人を選んでいたっておかしくはない。その存在を隠しきれてさえいれば、いないものと同じなのだから。


「あ、返事きた」

「はや……。なんて?」


 そうこうしているうちに、美紀が送ったメッセージに返信があったようだ。あまりの即レスに驚きつつ、美紀から内容が開示されるのを待つ。


「絶対行く、って。ほら、こんな楽しみにしてくれてるくらい仲良くなったんだって!」

「……マジか」


 なんで断らないのか。そこまで美紀が気に入ったのだろうか。二人でコソコソと連絡を取っていることだし。まあ、どちらも私に報告する義理なんてないけれど。そもそも、教えてもらいようがないという話でもある。

 そんなことは置いておいて、逆に考えれば、これは由唯への意思表示のチャンスになるかもしれない。もう私から会いに行けない、行かない以上、あなたのお望み通りファンをやめます、安心してください、と伝えるにはここしかない。


「ね、今日大学なかったらしくてさ。晴香ん家の最寄で合流ってことでいい?」

「……分かった」


 たまたま同じ大学だっただけで、こんなお近づきになれて、ましてや家に呼べるなんて。それこそ特典会で首を傾げていた同性の特権というものを振りかざしてしまっているように感じて、少し気がひける。

 けれど、今回に関しては由唯が悪い。他責は好きではないけれど、私からアクションを起こしたわけじゃないので、ノーカンとさせていただきたい。一人脳内で言い訳しながら、覚悟を決める。




 そんなこんなで、何故か他界を誓った元推しが、私の家にやって来ることになったのだった。

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