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推しに他界を願われた話  作者: 良々城田 佳
他界のすゝめ

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7/10

「本当に、大好きです。ずっと応援してます」

「やっと来た! ずっと向こうで様子うかがってたでしょ〜?」

「……いやなんか、ちょっと緊張しちゃって。すいません」


 これまでとなんら変わらぬ態度で接してくる由唯とは対照的に、私はどんな風に話せばいいか分からなくなっていた。一対一の時間とはいえ、すぐ近くには大勢のファンや運営もいる。迂闊なことは言えないし、できない。変に距離感が詰まっているのも、逆に遠くなっているのも、とにかく周囲に不自然に思われないかが不安になってしまう。


「え〜? 緊張だなんてそんな、ゆいとsunnyちゃんの仲でしょ?」

「どんな仲ですか……」


 それは、ここ最近の心からの疑問だ。けれど、由唯の一人称が「ゆい」であることや、前グループでのキャラ作りが少し残る甘めの話し方、私をあくまでハンドルネームの「sunny」と呼ぶことが、今はこれまで通り、ただのアイドルとファンであることを強調しているようで、少し落ち着く。


「んも〜、今日なんか塩じゃない? ……えいっ」

「え、ちょっ!」


 チェキを撮るために横並びになって簡単なポーズをとったところで、腕に抱き着かれて、そのままツーショットが写真に収められる。恐らく、私の間抜けな表情が切り取られていることだろう。慌てて腕を抜き取る。


「何してるんですかっ」

「ん? いーじゃん、そんな。減るもんじゃなし」

「いや、そういう問題ではなく! ……ほら、お触り厳禁なのに!」

「それはそっちのルールでしょ? ゆいはそんなの知らなーい」

「いやいやいや……」

「っていうか、他の子だって結構やってるし、注意されたこともないから大丈夫だって!」


 実際、女の子のファン相手なら、アイドルの方から軽く腕を組んだり抱き着いたりは割と見る光景だ。ただ個人的には、本来平等に課せられたルールのはずなのに、対応に差が生まれるのは不公平な気がして、恩恵に預かる側とはいえ、少しモヤモヤしてしまう。まあ別に、だからといってお気持ち表明をするわけでもないけれど。

 由唯の場合は、それほど接触が多いわけではない。だからこそ、同性だからと気安くベタベタしようとするファンを見る度ヤキモキしてしまうわけだが。


「このご時世、誰が何してくるか分かんないんですから、気をつけてください」

「そんな物騒なこと言わないでよ〜。……あ、それともあれ? 嫉妬しちゃったり? 私以外とベタベタするな、みたいな独占欲だったり?」

「そんなヤバいファンのつもりはないですけど」


 なぜだか由唯は嬉しそうにしているけれど、そんなつもりは毛頭ない。アイドルに対して独占欲を抱くだとか、ファンサービスに嫉妬するだとか、そう思ってしまうのは仕方ないにしろ、わざわざそれを本人に表明して制限しようとするファンなんて危険でしかない。もちろん程度の問題はあるけれど、あくまで相手はアイドルであって、恋人でもなければ友人でもないのだから。

 多少そういう気分を抱く程度のことはあるかもしれないが、そこまではっきりした感情にまで発展すれば、行きつく先は刃物を持ち出したりストーカーしたりといった事件のような気がする。そうはなりたくないものだ。

 ひとり自分が化物になる未来を想像して身震いする中、由唯は呑気に話を続ける。


「ええ〜? それがヤバいファンなら、ゆい、ヤバいかも」

「……なんで?」


 由唯にも、そんな感情を抱く推しがいるのだろうか。アイドルなんてものを目指して、今やっているくらいだから、きっと昔から好きなアイドルがいるのだろう。聞いたことはないが、そんな熱烈に応援している相手が気になってしまう。


「だって、sunnyちゃんが他のアイドルに行っちゃったらめっちゃ嫉妬するし、チェキでベタベタなんかしてたら、もう怒っちゃうかも」

「……うまいですね、本当」

「あ~、信じてないでしょ〜。DDも推し増しも許さないからね?」

「言われなくたって別にしないですよ、そんなの」


 信じていないわけではなく、それは私が、というよりファンみんなが主語になる話であって、営業トークとしてうまい返しだと思ったことをそのまま言っただけだ。他意はない。


「sunnyちゃんは、ゆいが大好きで、ゆい一筋だもんね~」

「……そうですよ」


 肯定するけれど、それで終わり? と言わんばかりに見つめられて、妙な間が空く。何を求められているかは分かっているが、プライベートでつながってしまったばかりに、それを口にするのを変に意識してしまう。

 でも結局、この時間も永遠ではなくて、推しに会えるのは当たり前ではない。いつ由唯が引退してしまうかも分からないし、私だって今はファンをやめて欲しいと言われているだけだけれど、いつか出禁になってしまうかもしれない。そうでなくとも、人生というものはいつ何があるか分からないわけで。どこが最後になってしまうか全く予期できない以上、やはり言わざるを得なかった。時間が迫る緊迫感もある中、真剣に気持ちを込めて伝える。


「本当に、大好きです。ずっと応援してます」

「〜〜〜っ、ゆいも大好きだよ! また来てね、待ってるから!」


 時間が来て、喜びを全面に出してくれる由唯に手を振ってお別れする。


 私のかける言葉なんて、これでもかと由唯に降り注ぐ愛情のシャワーの一滴に過ぎないのだけれど、それでもその雫を大事に大事に受け取ってくれる。だから、由唯が好きだと思うし、幸せに生きていて欲しいと思う。


 ならやっぱり、自分がどうしたいかよりも、由唯の望みを叶えてあげた方がいいのではないか。十分いろんなものをもらって、無味乾燥した人生を彩ってくれたのだから、お返しをすべきだ。


 ファンをやめる。


 胸が痛むけれど、所詮その程度で死ぬわけではない。自分の感情に無視を決めこんで、私は由唯の望みを叶えてあげたい、と決心した。

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