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推しに他界を願われた話  作者: 良々城田 佳
N-S

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22/28

「……デートかよ」

『大丈夫? 生きてる?』


 寝そべってスマホの画面に浮かぶ文字列とにらめっこして、かれこれ数時間。


 最後に陽向とメッセージのやり取りをしたのは、思い出すのも嫌な、例の事件があったときのもの。そもそもやり取りとは言えず、私の既読スルーで終わっているのだが。

 ……それはともかくとして、私は今、猛烈に悩んでいた。


 アイドル美城由唯ではない、大学生岡城陽向との付き合いが始まって、それなりの時間が過ぎた。彼女の装いと態度は少々変わったものの、これまでと変わらず、たまのお昼時間の共有が続いている。


 だがしかし、本当にこれでいいものか。私からは何もできておらず、いつもただ食堂で陽向が現れるのを待つだけ。受け身でいてばかりではいけない。こちらからもアクションを起こさないと、という気持ちが、近頃ふつふつとわいてきていた。──つまるところ、遊びに誘いたいのである。


 そうは言っても、相手は花の現役女子大生アイドル。忙しいだろうし、誘ってもスケジュールを空けるのが難しいのではないか。それに、かつてアニメのタイアップで一時期注目を浴びたとき、スキャンダルが狙われたものの、あまりの清廉潔白ぶりにメンバーと立ち食いそばを食べているところが記事になる、なんてこともあったくらいだ。どこかへ連れ出すのも、悪い気がする。

 ……なんて並べ立てているけれど、結局勇気がでないのを誤魔化して、できない、やれない理由を探しているだけだった。それに対等を目指すなら、こんなにアイドル相手に引け目を感じているのもダメだ。いや、忙しい相手に気を遣うのは当然だからいいのか? もうよく分からなくなってくる。


 そもそも、交友関係の少ない私にとって、人を誘うというのはとんでもないハードルだ。自分から誘う以上、行き先やら日程やらも決めなければならない。……それは言い過ぎか。ならないわけではないかもしれないけれど、少なくとも案は出すべきだろう。そして、私は一般的大学生が友人と遊ぶときに何をしているのかなんて、知る由もない。

 高校生のときは、遊ぶといえば専らカラオケかボウリングで、地元にはそれしか選択肢もなかったから、考える余地もなかった。今は都会に出てきて、選択肢は豊富にあるけれど、どれを選べばいいか、分からない。

 なんとなく、SNSで昔の知り合いがしている投稿を見る限り、世の仲良しの学生同士はカフェに行ったりしているようだけれど、それなら今の食堂で駄弁っているのと変わらないし、わざわざ誘うほどでもないと感じてしまった。普通、話題のカフェに行くことそのものに意義があるのだろうけれど、生憎と私はそんな価値観は持ち合わせていない。


 いやしかし、陽向はどうだろう? 彼女が意義を感じる側だというなら、私としても別にアンチというわけでもなし、カフェへ行くのはやぶさかではない。脳内に陽向を思い浮かべて、誘ったときにどんな反応をするか考えてみた。


『え〜! いいじゃん、行こうよ!』


 ……違うな。これはどちらかというと由唯だ。まあ同一人物である以上、芸の肥やしというか、トークのタネを提供することはできるとも言えるのかもしれない。が、それよりも陽向としての返答を大事にしたい。


『……』


 ……ダメだ。どんな反応をされるのか、皆目見当もつかない。驚くほど解像度が低いどころか、まだ性格を掴みきれていないせいで、脳内陽向は一切喋りもしなかった。いつも無駄に豊かな想像力を、なんとか働かせる。

 そのうち、なんとなく全てを見透かされていそうで、私が興味ないことを察したうえでやんわりと断られるイメージはわいてきた。


『カフェ? 晴香、興味あったの?』

『いや、まぁそんなに……』

『ないの? じゃあ、いいじゃん。そんな無理して友達っぽくしなくていいよ』


 ……この場合、そもそもバカ正直に興味ないなんて言わなければいいわけだけれども。そんなどうでもいい嘘を吐きたくもない。

 もう、とにかくカフェ案も却下。振り出しに戻る。


 じゃあどうするのか。さっきの理屈でいけば、わざわざ誘う理由のある場所に行く必要がある。例えばそう、遊園地とか、水族館とか──


「……デートかよ」


 思わず自分でボソリと呟いて、改めて恥ずかしくなる。いきなりそれは、気合が入りすぎていてドン引きだ。じゃあ最初はどの程度がふさわしいかというと、やはりカフェなどになるのだろう。でもそれは先ほど却下されていて、もう堂々巡りだ。


 自分で考えるには限界があるし、相談できる相手も一人しかいなくて、でもその相手は陽キャ過ぎて参考にならない。ネットに聞いても提案されるものはどれもしっくりは来ない。万策尽きた、おしまいだ。


「はぁ……」


 一旦全てを諦めて、起き上がって靴を履く。気分転換に、日が暮れ始めている外に出た。そろそろ涼しくなってきて、散歩のしやすい季節だ。


「……あ」


 なんとなく歩いていると、道端にかなり人慣れしている様子の猫が寝転がっていた。近づいても逃げ出さず、かえって心配になる。

 ふと思い立って、スマホを取り出し、その愛らしい小動物を写真に収めた。そのまま、ずっと先ほどまでにらめっこしていた画面に飛ぶ。


 そもそも、遊びに誘う前に、この連絡画面を雑談ででも動かす方が先だろう。そんな簡単なことにようやく思い至る。

 急に画像だけ送るのもな、と『にゃーん』と打ちかけて、柄でもないと削除する。『散歩中にいた猫、かわいい』などという、事実のみを告げた何の面白みもない文章を打ち直す。

 正直迷いはあるし、怖い気持ちもあったけれど、これ以上は考え込んでも余計に勇気が出なくなるだけだ。思い切って送信ボタンを押して、スマホを封印するようにしまいこむ。

 もうやってしまったことは変えられない。連絡を気にし過ぎないように、あくまで自然にスマホと距離をとって、再び歩き出した。


 新たな悩みの種は生まれたものの、家を出たときより幾分か軽い足取りで、私は帰路についたのだった。

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