「そんなキレイに分けられなくない?」
「いただきまーす」
「いただきます」
明確に示し合わせているわけではないけれど、まるで約束したかのように、このところは決まった曜日、決まった時間に決まった席で陽向と一緒にご飯を食べている。
先日の一件でのストレッサーというか、心の乱れの原因の一つであった、いつどこで遭遇するのか分からないという点に関しては解消されたわけで、ありがたいはずだけれども、どこか寂しい気もする。
追われて逃げ回った癖に、引かれて物足りないなんてワガママが過ぎる。意地でも、そんな感情があることはバレないようにしたいところだ。
「……ねぇ、晴香。聞いてる?」
「あぁ、うん。聞いてるよ」
「えぇ~? ホントかなぁ?」
というか、仲直り──喧嘩していたわけではないけれど──の直後は、陽向が学食に姿を現す頻度はそう多くなかった。陽向は私の様子をうかがいつつ、徐々に会う機会を増やしてくれていた。気を遣わせてしまったことに対して申し訳なさを抱きつつ、そこまでしてもらっている以上、こちらとしても誠意を見せたいところだ。
──そう、思ってはいるのだけれど。
「嘘ではないよ、本当、ほんと……」
「……ふ~ん? ならいいけど。でさぁ~」
結局怖くて、ろくに素直な感情を出せていない。つまらない返事しかできなくて、陽向ばかりが頑張る何の面白みもない会話だと思う。
とにかく、私は自己開示というものが苦手なのだと思い知らされていた。そもそも、開示する自分というものがないようにも思える。
ならせめて、陽向に話してもらうにしろ、相手のことを知れる質問なんてものをしたい。けれど、それも私にとっては難しかった。だって、軽く聞けること、好きな食べ物とか、趣味特技とかは、インタビューやら何やらで情報として知っている。まあもしかしたら、それらはアイドル用の答えであって、陽向としては違う答えが出てくるのかもしれない。でも、それらを聞いたところで、興味がないとまでは言わないけれど、話が広がるのかは甚だ疑問だ。かといって、本当に興味がある聞きたいことは、全て美城由唯につながってしまうような気がして。
『芸能活動しながら大学通うの、大変じゃない? なんで進学しようと思ったの?』
『オフって何してる、っていうかそもそもあるの? 休めてる?』
却下。バリバリに美城由唯に関わる問いだ。まだファンの意識が残っている感がある。余計なお世話も混じっていて、黙った方がいい。
『陽向って卒業した後の進路っていうか、就職先とかは希望あるの?』
……これはこれで、白々しい。却下。
話題の提供というのは、かくも難しいものなのか。というか、私の興味の範囲が狭すぎるせいで、共通項がないのが問題だ。話を続けられるほどの知識があるのは、アイドル関係だけだ。他なんて──
『なんで、私に声をかけようと思ったの?』
『誇りってどういうこと?』
『どうして、まるで私が特別みたいな扱いなの?』
こんなこと、いくら問い詰めてもまた躱されるだけだと諦めかけている。それになんというか、どこか自意識過剰な感じもあって、聞きづらいところもある。
だから今日も、ただ陽向の雑談を聞いて、相槌を打つだけ。これで本当にいいのだろうか。彼女は満足なのだろうか。不安でしかない。
「……晴香のとこは?」
「えっ?」
「もう、やっぱ聞いてなかったでしょ。晴香の学部にはさ、めっちゃ癖強い教授とかいなかった?」
「あぁ……、そういえば──」
適度に話が振られるから、それに答えることで、なんとかキャッチボールが成立している。ただ、陽向に負担が大きく偏っている、アンバランスな状態だとは思う。
「……あのさ、晴香。これは確認なんだけど」
「?」
「とりあえず、ずっと好き勝手に喋ってるけどさ。私のこと、ちゃんと知れてる? 聞きたいこととかさ、ない?」
「それは……。うん、考えてはいるんだけど……」
陽向からしても、話を振られない限り、ずっと黙りこくっている私に不安になることだろう。申し訳なく思いつつ、でもやはり軽快なトークなんて、できる気がしなかった。
「いや別に無理に出すことないし、ないならないでいいんだけどさ。気になっただけで。むしろ私ばっか晴香に聞いちゃってるからさ」
「ごめん……」
「や、謝らないでよ。一応もっかい言っとくけど、責めてるわけじゃないからね?」
「うん、ごめ……、んんっ。いやなんか、陽向に何聞けばいいのかって、難しいんだよね。どうしても混じっちゃうっていうか」
また謝りかけて、そうじゃない、と咳払いで仕切り直した。素直に、素直に、と言い聞かせて、本心で語る。
そんな私に、陽向は苦笑いで返す。
「前から思ってたんだけど、由唯だって私の一部分だし、そんなキレイに分けられなくない? 混じるのも当たり前だし」
「そっ、か」
「うん。そうだよ」
だから、なんでも聞いてね、と彼女は締めて、この日はお開きになる。
陽向という人格の中に美城由唯は包含されていて、だから由唯の話を聞いても、それは即ち陽向の話にもつながって。
でもやっぱり、最初から由唯としての話を聞いてしまうと、陽向のことを知ったことにはならない気がしてしまう。だから、難しい。
由唯のファンではなく、陽向の友人として生きる道は、まだまだ私には険しいものだった。




