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推しに他界を願われた話  作者: 良々城田 佳
陽向と由唯

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18/18

「あの子と、どういう関係なの」

 学食を出て、次の講義へ向かう陽向の背中を見送り、私は図書館にでもこもって時間を潰そうかな、と歩き始めようとしたそのとき、目の前を人影が遮る。偶然かと思って、会釈しつつ避けて横を通ろうとすると、声をかけられた。


「ねえ」

「えっ。……はい?」


 驚き過ぎて声が上擦ってしまった。いきなりタメ口、というか高圧的に話しかけられたのもあって、警戒心が高まる。そこまで特徴のある女性ではないから自信はないけれど、多分知らない人だと思う。一体何の用なのか、緊張しながら次の一言を待った。


「どういう関係?」

「は、え?」

「あの子と、どういう関係なの」

「はぁ、えっと……」


 状況が飲み込めずに困惑していると、相手は苛立ちを隠さずにまくし立ててきた。


「だから、陽向とどういう関係なのか、って聞いてるの」


 まず、あなたがどちら様で陽向とどういう関係なのか。私からしたら、そんな疑問が頭によぎるけれど、問答する方が面倒そうだ。というわけで、大人しく返答することにする。


「まあ、普通に友人、ですけど……」


 まだ、勝手に自分たちの関係性をそうやって表現することに抵抗はあるけれど、わざわざ友達になろう、なんてやり取りを経ているのだから、間違いではない、と言い聞かせて、そう答えた。

 すると、元々険しかった顔つきが、ますます剣呑になっていく。


「そんなわけない。くだらない嘘はいいし、そもそもそういうこと聞いてるわけじゃないから」

「……はぁ」


 頭ごなしに否定されて、私も少々苛立ちはしたけれど、とにかく面倒で黙って受け流す。この人は、私に何が聞きたくて、何がしたいのやら。さっぱり分からない。


「えっと、それじゃあ、どういう……?」

「なんであの子、最近あなたとよく一緒にいるの」


 そんなの、聞く相手を間違えているとしか言えない。陽向の行動の理由なんて、陽向しか知りようがないわけで。

 そもそも、私がそれを知り得るなら、いろいろな悩みがとっくに解決されていることだろう。だから、その質問の答えは私が聞きたいくらいだ。

 というわけで、逆ギレの危険性に怯えつつ、素直にその考えを口にする。


「ちょっとそれは、私に聞かれても……。陽向のお知り合い、なんですよね? なら本人に聞いてみてください」


 流石に、本名で呼んでいるわけだし、特定班のやばいオタクでもない限り、この人は陽向の知り合いだろう。"あの子"と呼称しているあたり、それなりに近い関係性、というか友人なのだろうけれど、先ほどの会話が尾を引いて、当てこするように知り合いと称した。


「聞けるわけないでしょ、そんなの」


 開き直っているのか、堂々とそんなことを宣って、そんなことも分からないのか、と言わんばかりに鼻で笑ってくる。私からすれば、よく本人に直接聞けもしない癖してそこまで威張れるものだ、という感想しか出てこない。


「ってか、すっとぼけるのも大概にしてよ。あなたなんかのために、わざわざあんなめかしこんで会いに行くなんて、何かあるに決まってる」

「はい……?」


 めかしこむもなにも、むしろ陽向の普段着はかなりラフだと思う。比較対象が、これでもかと魔法が施されている"美城由唯"だから、そう感じてしまっているだけ、なんてこともない。なんせ、Tシャツにジーパンなんて日もあるのだ。そりゃあ確かに、もとの顔がいいだけあって、それでも様になっているけれど。


「いや、でもそれが、本当に友達だったからってこと……?」


 私がひたすらに困惑していると、ひとりで何事かブツブツと呟き始めたので、これ幸いと逃げ出す腹づもりをする。これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは御免だった。


「じゃあ、私はそろそろ、これで……」

「え? あ、ちょっと……!」


 呼び止められているのは分かったけれど、そそくさと早歩きで立ち去る。図書館に逃げ込んで、ひとまず追いかけてくる気配がないことに安堵した。


 ──一体、なんだったんだ。

 それに彼女こそ、陽向とどういう関係なのか。


 謎は多かったけれど、わざわざ解決のために彼女と関わろうとは思えない。いかにも苦手なタイプだったし、相手も相手でこちらのことを快くは思っていなさそうだった。……もしそれが当たっているなら、最初から関わりを持とうとしないで欲しかったけれど。


 周囲に迷惑をかけない程度に、静かにため息を吐く。もう、考えたって仕方がない。切り替えて、面白そうな本を物色するため、本棚に向き合った。


***


 目にとまった何冊かを読破して、それなりに時間を潰すことに成功した頃、そろそろ帰って夕飯の準備でもしようかな、とスマホの画面を開いて時間を確認する。すると、美紀からメッセージが来ていた。


『今度、工学部とかある方のキャンパスで就活イベントやるらしいんだけど、行く?』


 その文言と共に、一杯どう? という意図は分かるけれど趣旨とはズレたスタンプが添えられている。

 ──就活、就職活動。なんとも嫌な響きだ。けれど、この時期ともなれば、嫌でも耳にする言葉だし、嫌でもやらなければいけないことなわけで。

 私としては、最近留学経験という武器は手にしたものの、その期間に実際の就活はできていないわけで、後れを取っている危機感はある。同じゼミの人たちから聞くインターンの話が、参考になりつつも焦燥感を煽ってきていた。


『行くよ。一緒にかはともかく』


 進む道は個々人で違うのだから、このイベントにおいて誘い誘われする意味は分からない。というわけで、単独行動を示唆した返信をしつつ、少し考えて、追いで返信した。


『でもわざわざ教えてくれて、ありがとう』


 適当にスタンプも添えて、スマホを閉じる。厚意に対して、冷たい態度ばかり取るのはよろしくないと学んだばかりだ。自分の意思は示しつつ、感謝すべきは感謝して。同じ過ちを繰り返さないように。嫌いな自分を、よりマシな自分にするために。


 そしたら、胸を張って、陽向の友達を名乗れる。……ような気がした。


 両手を組んで頭上に、大きく伸びをする。ふと、まさかとは思いつつ、念には念を入れて昼間の高圧的な女性がいないか、周囲を軽く警戒しながら図書館を出た。

 また遭遇したくはないけれど、また陽向との食事後を待ち構えられたら避けようがない。今日で無駄だと悟って諦めてくれていたらいいけど、と祈りつつ帰路についた。

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