「なにそれ、本気で言ってんの?」
先週の更新、上手くいっておりませんでした。
大変申し訳ございません!
修正した前回分の最後から続いておりますので、よろしくお願いいたしします。
「うわやば、ここも席空いてなさそう」
「……」
「なーんでこんなどこもかしこも埋まってるんかねぇ。──もうめんどくさいからウチでいい?」
「え、まあ、……うん」
ナンパ風に声をかけてきた美紀に連れられ、大学の最寄駅周辺で手頃なカフェを探していたけれど、どこも混み合っている。というわけで、私たちはそこから徒歩圏内にある美紀の家へと向かうことになった。
「そういや前一緒に受けてたあの講義さ、今回から本気出してきてマジで意味不明なんだけど。晴香いないから、聞く相手もいなくなっちゃったし」
「……ごめん」
「え、そんな深刻に謝られても困っちゃうけど」
今話している件だけではなく、一連を丸ごと含めて謝罪の気持ちを乗せたから、美紀からすると見合わないほど重苦しいトーンになってしまったようだった。けれど彼女は切り替えるように、別の話題で明るく話しかけてくる。
「それにしても、この時期から図書館通いとか、卒論ガチ勢? いやまずミニ卒か。どっちにしろ真面目だねぇ」
「……なんで」
「ん?」
「なんで、分かったの。図書館いるって」
せっかくの気遣いを無に帰すことになっているが、ずっと何事もなかったかのように軽口を叩く美紀に、気になっていた疑問をぶつけた。呆れたか、諦めたか、美紀が息を深く吐く。
「私の人脈舐めないでよね。そんくらいの情報、すぐ入ってくるから」
「そんな、バカな……」
「てかさぁ、返事が面倒でも既読くらいつけてくれん? 心配でしょうが」
「……母親?」
「誰がじゃい。……あのさ、冗談とかじゃなくて、本当だからね? 心配なんだから、そこんとこ分かってよ」
「ごめん……」
「全く、手がかかる子なんだから」
美紀が明るいトーンから真面目なトーンになった途端に、今度は私が軽い返事でかわそうとしてしまう。それが不興を買ってしまったようで、強めに叱られた。だが、素直に謝れば、今度は美紀が先程のフリに乗っておどける。
ずっと、そんな奇妙なバランスが保たれていた。
「へい、らっしゃい!」
「どういうテンションなの」
そうこうしているうちに家まで辿り着いて、先に入った美紀からお出迎えをされる。
「いや〜ごめん、ちょっと散らかってるけど」
「いいよ別に」
「そう? じゃ、回りくどく探り入れられるの嫌いだろうし、さっさと本題聞いちゃうけどさ」
家の中で二人きり、誰かに聞かれる心配もない。その状況になった途端に、鋭く美紀は切り込んで来た。そう思うと、下手にどこかの店に入らなくて良かったなぁ、などと頭の片隅で現実逃避のように考える。
「ケンカでもしたの? 陽向ちゃんと」
「ケンカ……」
アレは果たして、ケンカと呼べるようなものなのだろうか。少なくとも私の中では、そんなことができるほど、私たちはまだ対等な関係ではなかった。
だから、ゆるゆると首を振る。
「してないよ。ケンカは」
「ケンカ"は"?」
「……そんな大層な違いじゃないかもだけど。まあ、一方的に私が悪いだけの話だよ」
悪いのは私であって、陽向は何も悪くはない。喧嘩両成敗というけれど、裁かれるべきは私ひとりなのだから、そういう意味でも今回の件はケンカではないと思う。
「まーた謎のこだわり発揮してる」
「こだわりとかじゃなくて、事実だし」
「でも陽向ちゃん、気にしてたよ」
「……なんか聞いたの?」
相手側があの一件をどう認識しているのか、気になるところではある。別にもう関係を断とうと思っているから、どうでもいいはずなのに。
「詳しくは知らないけど、やっちゃったっぽい感じでしょげてたかな」
「なんで……。あっちは別に気にすることないのに」
「同じものを見てるつもりでも、人によって見え方ってのは違うからね。誰かさん曰く」
「……」
それはまさしく、かつて美紀に相談を受けたときに自分が言った内容だった。なんだか悔しくて、黙り込んでしまう。
「とにかく、早く謝って仲直りしなね」
「だから、ケンカじゃないってば」
「じゃあもうなんでもいいけどさ、時間経てば経つほど気まずいよ?」
「……気まずさとか、関係ないよ」
だって、このまま終わりにするつもりなのだから。やり直すならば確かに時間の経過がどんどん重くなるけれど、その気がない以上はなんの関係もない。
「なに? この一回の失敗で終わりにするの?」
「……今は一回だけど、長く付き合っていくなら増えてくんだから。これが最初で最後にしたらお互いハッピーでしょ」
「なんでそう後ろ向きかなぁ」
こちらからすれば、そんなに人付き合いに前向きな美紀の方が不思議だ。ついでに、他人の人間関係に首を突っ込んでくるところも。
「とにかく、美紀もだけどさ、わざわざ私なんかと関わらない方がいいよ」
人に離れられる前に自分から、なんていう見栄ではなく、偽らざる本音を零す。
けれど、今までの緩い雰囲気とは打って変わって、剣呑な空気がその場に流れ始めた。
「なにそれ、本気で言ってんの?」
「……っ」
今までのおふざけなんて比較にならないほど、本気の憤り。低い声と鋭い眼差しにたじろいで、何も言えないまま視線を逸らした。
「誰と関わるかなんて、自分で決めるから。ましてや、その価値なんて人に決められないし」
美紀の言うことは、ごもっともだ。いくら自分自身のこととはいえ、相手の中の評価を勝手に決めつけて、あまつさえ相手の行動まで操ろうだなんて、自惚れが過ぎる。
「……本当にさ、晴香って頭いいけどバカだよね」
言葉はキツイけれど、優しい声色になった美紀を、ちらりと窺う。
「相手が本当はどう思ってるのかとか、そんなの分かんないし、変えられるもんでもないんだからさ。自分がどうしたいか、だよ」
「……」
私。私が、どうしたいか、なんて。
──そんな簡単なことが、正直一番よく分からない。
由唯と、陽向と深く関わるべきでない、なんて考えは、あくまで理性で考えた理想であって、本心ではないのか? でも、やっぱりそれが正しいと思う心だって確かにある。
素直な気持ちだなんてものは、混沌とした内心に紛れて見失ってしまった。
「ま、偉そうなこと言って、私だって人間関係下手くそだし失敗してるけどね。参考にならんかも?」
「そんな……、そんなことない。──ありがとね、美紀」
「いいってことよ」
話は済んだけれど、せっかくだしゆっくりしていきなよ、と言う美紀の誘いを固辞して、帰路につく。
これだけ話しても、まだ、分からない。どうすべきか、いや、どうしたいか。
どうしたって、逃げ腰の自分がいる。このまま何もせず、時間が経つのに任せて、いつか楽になるのを待ちたい自分が。でも、本当にそれでいいのか? 自問自答を繰り返す。
家に帰っても、床についても、ずっとぐるぐると思い悩みながら、この日は無理矢理に眠って、翌朝を迎えた。




