調合83
「もう面白いものが準備できたのか? 随分と早かったな。エリーチェ殿。」
「今日のうちに、再びお目にかかることになるとは、私も想定外でございます。」
私は、ジークフェルドの私室の外の庭へ出て、ニョッキの筒のおもちゃを使って水を飛ばしてみせた。
「ローレンツ、作るところを見ていたか?」
「はい。見ておりました。」
「では、早急に、なるべく多く準備せよ。100は欲しいが、そのニョッキとやらは十分にあるのか?」
「大きさは不揃いとなりましょうが、数だけなら。」
結局、私は、王宮図書館司書に、司書の業務以外の仕事を押し付けることになってしまった。
次に妖精さんに出会ったら、よく効く胃薬を譲ってもらえないだろうか?
数日後、私の下へ、ジークフェルドから封書鳥が飛んできた。
例のニョッキの筒のおもちゃは、200個ほど完成したとのことだった。
そして、やはり、これ以上長引かせるわけにはいかない、という結論になり、ヴォルフガングは、不承不承ながら、ジークフェルドの遠征参加を許可した。
“兄上を説得できたのは、エリーチェ殿のおかげだ。感謝する。私が、任務を全うできるよう、祈って欲しい。”
そう、手紙には書かれてあった。
シャルロッテが得た情報では、フール川の東岸側に、ガタパライムが湧いて出てくる洞窟があることが分かったという。
ガタパライムの異常増殖がみられる地域を包囲し、周辺からおもちゃ部隊が無毒水をかけ、物理攻撃隊がそれに続く形で、中央部の洞窟に向かって進む作戦が立てられた。
ジークフェルドとヴェゼリは、もっともガタパライムの数が多い地域の両端に移動し、無属性の魔力をかけながら、洞窟を目指すことになりそうだ。
大丈夫なのだろうか? 私の頭には、扉を前にして、真っ青になり、冷や汗をかいていたジークフェルドが、浮かぶ。
妖精さんの熱冷ましは、受け取ってくれたよね。だったら……。
私は、引き出しの中に入れておいた、妖精さんの名刺を思い出した。
行商に来た妖精さんのシュヒテルから受け取った小さなカード。私は、どこかに、連絡方法が書いてないか、表裏をひっくり返しながら見た。
しかし、そこにはただ、“シュヒテル”と名が書かれているのみだった。
「駄目か。シュヒテル来てくれないかな。」
両手でカードを持ちつつ、呟いた瞬間、そのカードは虹色の光を発した。
「やぁ。くしゅん。こんちわ。くしゅん。何が入用かね? くしゅん。」
そこには、私の膝丈くらいの背の高さ、グレーのスモックを着て、同じグレーの縁なし帽を被っている、妖精さんが立っていた。しかし、何か変だ。
「あの。シュヒテル、じゃないよね。」
「そうだよ。くしゅん。シュヒテルはお休みだよ。くしゅん。今日の担当は僕ニーゼンさ。くしゅん。」
ニーゼンは、ずっと、くしゃみをしていた。
「鼻が敏感なだけさ。くしゅん。」
「お薬、いただける? よく効く胃薬と、不安になった時に効く薬。」
「胃薬なら、お安い御用さ。くしゅん。」
「不安になった時に効く薬は?」
「そいつは、ちょっと難しいな。くしゅん。」
ニーゼンは、よく効く胃薬をローレンツに届けると約束してくれた。
「これをあげるよ。くしゅん。サービス品。くしゅん。」
ニーゼンは、私に紫色の小さな石を渡してくれた。
私は、譲られた紫の小さな石が、どういうものなのか分からなかったため、詳しそうなモードリンに見てもらうことにした。
モードリンは、差し出した石を見た瞬間、息を飲んで凝視し、さらには白の手袋着用の上で丁寧に扱い、光の加減などを変えながら慎重に確認していた。
「これ、譲ってもらえない? 言い値でいいから。」
ようやく口を開いたと思ったら、飛びだした言葉が、それだった。
「妖精さん絡みでなければ、考えるのですが……。」
私は、これが、妖精さんから渡されたものであると説明した。
「そっか。つまり、間違いなく本物ってことなのね。あぁ、こうして目の前にあるだけでも奇跡なのだわ。」
「これ、そんなに、貴重な石なのですか?」
私は、さっきまで素手で掴んでいたのだ。胸のあたりが、キュッとする。
「これは、紫の太陽石だと思う。私も実物を見るのは初めてなのよ。」
モードリンによると、この石は、妖精さんにしか立ち入ることができない場所で産出すると言われていて、光の通し方に特徴があることから、紫の太陽石と呼ばれている。
「それを持つと、本来の力を正しい方向に発揮することができる、と言われてるの。あと、気持ちの揺れや不安を鎮める力もあるそうよ。」




