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調合82

スープは、ソフ海老の出汁と野菜の旨味が合わさった透明なもの。そこに、水餃子が3つ入っていた。

水餃子の具は柔らかなアール牛のミンチ肉と刻み野菜。

これは、エルリッヒのリクエストだったはず。


「これは、エルが食べたがっていたものではないか? カポチェット、凱旋祝いの食事に、これは必須だぞ。あと、この餃子の数、もっと増やせ。」

エルリッヒのためなのか、自分が気に入ったからなのか、ヴォルフガングは注文を付けた。


その後は、「芽ニョッキのステーキ風」、「口直しの爽やかソルベ」、「ステュ羊の煮込み」、と続き、「メランヌの実のムース」で閉められた。


「それにしても、ティナには困ったものだ。」

「ティナ様が、何か?」

「エルを早く王城に戻せと、言うておる。」


ティナ様ことアルベルティーナは、ヴォルフガングに負けず劣らず、“弟命の人”だった。


「せっかくのエルの努力を台無しにしてくれて……。それ以上に、ミッチが15年ぶりに皆の前に立った、その晴れ舞台を、掻っ攫いおった。……許せん!」

「兄上は、まだ、ティナとやり合っていたのですか? いい加減になさいませ。」

「国民はあれの見た目に騙されているのだ。こまっしゃくれた小娘が……。何が、アルランメディエ王国の1輪の薔薇だ。棘があるところが薔薇と一致しているだけだぞ。」

「兄上! エリーチェ殿が驚いておられます。」


確かに、アルベルティーナが全部持っていった感じはした。


「まぁ、あれの使い道は難しいのだ。黙って立っていれば絵になるからな。しかし、エルが自ら前に出た意味を薄めてしまった。下手をすると、“いつまでも姉に助けられている頼りない弟王”と見られてしまう。」

「あの、エルさんが、現地に行ったのって、ひょっとして……。」

「予定には無かった。ただ、エルが国民を引っ張っていくイメージを早めに確立する必要があったのでな。分かりやすさが大事なのだ。」


黒幕殿下は、いろいろ苦労しているようだ。


私は、ヴォルフガングに、王城敷地内でニョッキが生えている場所を見たいと頼んでみた。


「私は知らぬ。カポチェットに案内させよう。何か面白いことを思いついたのか?」


黒幕殿下は油断ならない。私は、曖昧な笑顔でやり過ごすことにする。

しかし、無駄であった。


「ニョッキの筒は分けて差し上げよう。それで作ったものを王城へ持ってきてもらう条件でな。」


ヴォルフガングは、にんまりと笑ってみせたのだった。


私は、カポチェットに案内してもらって、王城敷地内の北の端にある林へ入った。

そこには私の背丈の3倍はあるニョッキが生えていたのだった。


「これを切ったらよいのですね。」

一緒に来てくれた王宮図書館司書のローレンツと見習い料理人が、ニョッキの根元を切ってくれる。


「司書さんって、こういう仕事もされるのですか?」

「これは、司書の本来の仕事ではありません。しかし、ヴォルフガング殿下の無茶振りはいつものことです。胃薬を常備しておりますので大丈夫です。」


いや、胃薬常備って……。大丈夫じゃないと思います。それ。


結局、私は、ローレンツと見習い料理人に3本のニョッキを切り倒してもらい、さらに、コップ状になるように、節の位置で切り分けてもらった。


「何に使われるのか、一応、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

ローレンツは、切り分けたニョッキの筒を箱に入れながら、私に尋ねた。


「一種のおもちゃを作ろうかと……。この筒より細い棒とぼろ布と紐があれば、できるのです。」


ローレンツは少し考えて、近くに生えていた細いニョッキを切り倒した。

「長さはどうされますか?」


私は細いニョッキは長めに切り分けてもらい、ニョッキの筒に入るか確認した。

カポチェットは、台所から、古くなった布巾と野菜を縛っていた紐を持ってくるように見習い料理人に指示した。

私は、記憶の片隅にあったそれを再現できるかどうか、自信はなかったが、揃った材料を手にし、1つ作ってみることにした。


細いニョッキの一方の先端に、コップ状のニョッキの筒の内側とピッタリの太さになるまで、古くなった布巾を巻く。そして紐でぐるぐるに縛ってずれないようにした。

コップ状のニョッキの筒の底に小さな穴を開ける。

バケツに水を汲んできてもらい、ニョッキの筒を沈め、水がいっぱいに入ったところで、布巾を巻いた細いニョッキを差し込んだ。


人がいない方向に向かって押し出すと、水は細い線となって飛び出した。


「なんですか、これは?」

「おもちゃです。水をかけあって遊ぶのです。」


ローレンツには、こちらの意図が分かったようだった。私は、作ったおもちゃを抱えて、再び2人の殿下と面会することになってしまった。

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