調合81
「実は、生まれて初めて、兄弟げんかというものをしたのだ。」
ジークフェルドは、なぜか、楽しそうに言う。
「幼いころより、兄上は、何でも思い通りになされていた。私は、少しも思い通りにならぬ自らと比べ、口惜しくて仕方なかった。その上、いつも言うのだ。『兄を頼れ』と。」
「何を言っているのだ? ミッチこそ、真面目に、すべてをこなしていたではないか。」
「兄上は、本当は、何をしても完璧にできてしまうから、わざと、手を抜いてくださっていたのでしょう? 不甲斐ない私が、恥ずかしい思いをしないように。いつも、いつも『頼れ』と言われて、私は情けなかった。」
アンジェリドが、ヴォルフガングのことを“お兄ちゃんは頼られたい”を拗らせた残念な人、と評していたのを、思い出した。
「だが、今回は頼ることに決めたのだ。それなのに……。」
「あり得ない。つい最近まで、ずっと私室から出ることが叶わなかったのだぞ。それを、遠征に参加するなどと……。」
なんと、ジークフェルドは、ガタパライム討伐に、自分も参加したいと言い出したのだった。
フール川の東岸側から、ガタパライム討伐は大きな損害もなく進められていると報告がなされている。
しかし、すぐに終息させられる、という見通しではない。
なぜか、後から後から湧いて出てくるガタパライムに、決定打が欠けているのだ。
「解毒水でおとなしくさせることはできるが、目の前にまで近付かなければ、解毒水をかけることができない。無属性の魔力が、やはり必要なのだ。ヴェゼリ1人では、限界がある。」
近衛魔術師のヴェゼリは、その無属性の魔力を期待され、遠征に同行している。魔力の方は、より遠くまで波及させることが可能であり、解毒水より効率的。しかし、やはり1人では、ガタパライムが異常増殖した広大な範囲すべてをカバーすることは無理なのだった。
「少しずつ訓練は再開していたのだ。それに広大な範囲であれば、むしろ厳密な制御をするよりも、楽に魔力を使うことができるのだ。」
「いや、まだ無理だ。どのような危険があるか分からぬ。エリーチェ殿もそう思うだろう。そうであるな!」
2人は、参加するしないで、けんかとなり、私の意見を聞こう、となったという。
私より、アンジェリド先生に聞かれた方が、冷静かつ妥当な意見が出されると、思うのですが……。
「シャルは、ミッチに任せてみるのもあり、だと言いおった。」
面白くなさそうに、ヴォルフガングが言った。
「私は、魔力について知識がないので、判断しかねます。ただ、アンジェリド先生がおっしゃるのであれば、あり、なのではないかと……。」
「ほら、兄上、エリーチェ殿も、賛成だと言っている。」
「そんな馬鹿な。」
ふと気が付くと、王宮料理人のカポチェットが、こちらを、ちらちらと窺っている。
「とりあえず、食事会始めませんか?」
私が、口にした言葉に、カポチェットがにっこりと笑ってみせた。
食事会が始まる前に、私は、ジークフェルドに、妖精さんから譲ってもらった芽ニョッキの熱冷ましの入ったニョッキの筒を手渡した。
「妖精さんのお薬ですから、良いものではないでしょうか?」
「ありがとう。これは助かる。芽ニョッキの熱冷ましは貴重品なのだ。」
ジークフェルドは、喜んで受け取ってくれた。
食事会が始まり、前菜の皿が並べられた。
皿の上には、ニョッキの筒を縦切りにした容器が乗せられ、そこに、花や小鳥を模した野菜や果物が入れられている。
「前菜は、季節の野菜と果物の盛り合わせ。是非是非、オガ山葵ドレッシングでお召し上がりください。」
ニョッキの筒を食器として使っているためか、緑色が印象的。味もさっぱりしていて美味しい。
「これは、ツンとくるやつだな。なかなか面白い。食器は、先ほどの熱冷ましの入れものと同じようだが……」
「王城敷地内にも生えているのが見つかりまして。今朝、一番で採ってまいりました。」
私は、ニョッキが生えているところが見たくなった。




