調合80
結局のところ、王族が何を面白がるか? などということは庶民には理解できない。
私は、ヴォルフガングの無茶振りは、再度の食事会開催のみで諦めていただくことにした。
会場は、今回もジークフェルドの私室。
ジークフェルドといえば、あのバルコニーでの顔見せの後、3日間熱を出して寝込んだらしい。
エルリッヒとグランは、現在も、ガタパライム討伐の最前線にいる。
シャルロッテは解毒水調合以外にも、多数の依頼を受けていて、“濡れないエプロン”の改良も同時進行。
食事会は、ヴォルフガングとジークフェルドと私、というメンバーで行われることになった。
おそらくは、封書鳥で飛ばされてきた、あの嫌味たっぷりの内容を、直に、お聞かせ願えるのであろう。
胃薬の準備が必要だ。
当日、私は、ニョッキの筒を持って王城に向かった。中に入っているのは、妖精さんから譲ってもらった芽ニョッキの熱冷まし。
ジークフェルドに効果があるかは分からないが、この国では、妖精さんはそれなりに尊重されているようなので、ヴォルフガングの怒りは買わないと思う。
馬車を降りると、レメリスが出迎えてくれた。
「ようこそお出でになられました。殿下方がお待ちです。お足もとに注意なさって。さぁ、こちらへ。」
今回は、普通の入口から中に入った。ジークフェルドの私室に向かいながら、レメリスは、私に礼を言った。
「殿下は、お庭にも、お出になったのですよ。少しずつ良くなっておられます。表情もすっかり柔らかくなられて……。」
この人は、辛くはないのだろうか?
教育係の父親は、複雑そうではあった。が、ジークフェルドが亡くなった教育係のことを今なお想い続けていることを、理解していた。
「あの、不躾なことをお聞きします。ジークフェルド殿下のお側に仕えていらっしゃるのは、なぜですか? レメリスさんの息子さんは、その、例の事件で亡くなられたのでしょう?」
私の問いに、レメリスは立ち止った。
そして、ゆっくりと振り返り、言った。「殿下は、私の家族なのでございます。」
そして、再び歩き出す。
「リヒト、私の息子は生まれた時、仮死状態でした。何とか息をしたものの、体が弱く、そう長く生きられないと思われました。リヒトはしかし、母親の私が言うのもなんですが、利発な子でした。同い年ということもあって、ジークフェルド殿下のお側に仕えることが許され、私共々、王城へ上がらせていただきました。」
レメリスは続ける。
「リヒトが申しておりました。殿下はお寂しい方だと。大勢に期待され、囲まれ、頼られ。しかし、殿下は誰も頼りにされていない。ヴォルフガング殿下には心を許しておいでのようだけれど、いつも冷めた目をされていると。だから、リヒトはジークフェルド殿下の家族になると……。」
その日、レメリスには、リヒトが亡くなった瞬間が分かったという。
「あの子の気配がしたのです。そこにいるのが分かりました。とても暖かな気配でした。リヒトは、殿下をお恨みはしていません。だから、私も。」
きっと、ジークフェルドは15年間、この人に守られてきたのだろう。私は、少しほっとした。
ジークフェルドの私室に着くと、いきなり、謝られた。
「兄上が、エリーチェ殿に大変失礼な手紙を送った。申し訳ない。」
ヴォルフガングは、不貞腐れたような顔をしてそっぽを向いている。
「兄上!」
「わ、分かっておる。あ~、エリーチェ殿。短慮であった。許されよ。」




