調合78
「こんちわ。リューブル山羊ミルクと、リューブル山羊チーズ、本日の目玉商品、要らんかね。」
台所で、ヴォルフガングからの無茶振り食事会のメニューをどうするか? あれこれ悩んでいたところ、下の方から声がかけられた。
私の膝丈くらいの背の高さ、グレーのスモックを着て、同じグレーの縁なし帽を被っている。そして背中には籠を背負っていた。
久々に見た。妖精さんだ。今日は行商らしい。
「えっと、リューブル山羊チーズは食べたことがあるけど、ミルクの方が分からないんだ。」
私は、妖精さんに言った。
チーズは買い、だよね。お財布、どこ行った?
「そっか、あっ、味見してみてよ。」
妖精さんは、緑色の細長い筒状のものを籠から出して、台所にあったグラスに、その中身を注いだ。
「うん。これ、美味しいね。」
私は、ミルクも気に入ったが、それ以上に、容器の方が気になった。
「ねぇ、そのミルクの入った筒、竹じゃない?」
「タケ? これはニョッキの筒だよ。ニョッキは森のはずれに出てきて、あっという間に伸びるんだ。中が空洞になってるから、ミルクを入れるのにちょうどいいのさ。これに入れると傷みにくくなるしね。」
「私、ニョッキの筒も欲しい。」
「え? こいつは売り物じゃないんだ。こいつは特殊な仕掛けがしてあって、ミルクをたくさん運ぶために必要な商売道具なんだもの。」
何やら、妖精さんの不思議な力で、注いでも注いでも、ミルクがいくらでも出てくるようになっているらしい。
「仕掛けがしてない、ただのニョッキの筒を売ってもらうことはできないの? あと、ニョッキって、小さいうちは食べることができるんじゃない?」
タケノコが手に入るかもしれない。
「小さいニョッキ? 芽ニョッキのことか。あとニョッキの筒ねぇ。仕掛け無しでいいんだね。ふ~ん。これは新しい商品になるか……。」
妖精さんは考え込んでいる。
「とりあえず、チーズとミルク、両方買うね。」
私は、妖精さんからチーズの入った包みを受け取り、蓋付きのガラス壜にミルクを注いでもらった。
「まいどありぃ。ニョッキの筒はすぐに準備できるけど、芽ニョッキは朝早くじゃないと採れないんだ。明日でもいいかい?」
妖精さんは、小さなカードを出して、私に渡した。
「シュヒテル?」
「う、うん。じゃ!」
妖精さんは、顔を赤らめ、そのまま体の向きを翻して、去っていった。
シュヒテルは、どうも、妖精さんの名前だったようだ。
妖精さんの名刺、貴重な物かもしれない。私は、自室の机の引き出しに、入れておくことにした。
翌朝、シュヒテルは、芽ニョッキとニョッキの筒を籠に入れて、やってきた。
そして、あの、王宮料理人カポチェットが、再び、工房を訪れたのだった。
「あぁ、エリーチェ殿。私、またもや、参りました。是非是非、次の食事会も成功させましょう!」
シュヒテルは、驚いて、私の陰に隠れる。
「おや? これは何ですかな?」
カポチェットは、シュヒテルの持ってきた芽ニョッキを、興味深げに見つめている。
「芽ニョッキです。私が食べたかったので、妖精さんに頼みました。」
「ほぉ。さすが、妖精の招かれ人たるエリーチェ殿。して、これは、どのようにして食べるのですか? 是非是非、教えていただきたい。」
「通常は、茹でてあく抜きするはずです。」
芽ニョッキの皮を剥き、根元の硬い部分を切り落とした。そして鍋に水と塩を入れ、さらに芽ニョッキを入れる。
3つあるコンロのうち、1つの中央にニトロン岩を1つ置く。着火器で火を点けて、鍋を置き、強火に調節。沸騰してきたところで、中火に調節。そして30分ほどそのまま茹でた。
フォークで刺してみると、すっと通る。あとは、火を消して、冷めるまで放置だ。
「冷めたら、水洗いします。それであく抜き完了です。」




