調合76
広場内の空気が一変し、私は、ようやく、ゆっくり呼吸できるようになった。
「私も、……私に、あの場に立つ資格があるだろうか?」
隣で、呟かれた声。
「何言ってるんですか? ここまで来たのです。上に上がりましょう!」
人で溢れた広場の僅かな隙間を抜け、私たちは、目的の建物へ近付いた。
入口には、2人の近衛騎士が立っていた。
「止まれ。この先は進めぬ。」
「下がれ。この建物には近付くな。」
2人は叫んだ。
ジークフェルドと教育係の父親は、少しひるんだようだが、その場から退くことはなかった。
私は、深呼吸をしてから、2人の前に出る。
「私は、妖精の招かれ人、エリーチェ=コーにございます。急ぎ、参上仕りました。陛下にお取次ぎを。」
そう、余裕の無いところを見せてはならない。何時、如何なる時も。
私の言葉に、はっとした様子で、近衛騎士の1人は言った。
「暫し、お待ちを。」
そして、もう1人は、建物内に駆け込んでいった。
さして時間を待たずに、再び近衛騎士が戻ってきた。
「どうぞ、お入りくださいませ。」
ジークフェルドは、腰から剣を外し、近衛騎士に手渡した。
その剣に刻まれた印を見て、近衛騎士は、数歩、後ずさりした。
「しっ、失礼を。」
「構わぬ。」
フードが落ち、左眼を塞ぐ大きな傷跡が露わになったが、もはや、躊躇することなく、ジークフェルドは建物に入り、上へと階段を昇っていった。
私と、教育係の父親も続く。
ジークフェルドは、15年ぶりに、人々の前へその姿を見せたのだった。
新たな人物の登場に、ざわめきが広がる。
「ジークフェルド=ミッターフリーデン=ファン=アルランメディエである。長きに渡り、皆の前に出ることが叶わなかった。すまない。」
その言葉に、どよめきが広がる。
「今、陛下の話された通り、アルランメディエ王国は未曽有の危機にある。私からも、頼む。皆の力を貸して欲しい。この国のために。」
さらに、南側から、この建物を目指して進んできた人物がいた。
「通して! 通してください! ティナ様、アルベルティーナ=エルリカ=ファナ=アルランメディエ姫殿下が、通られます。道をお開けください。」
馬車から降りる姫殿下の姿に、ひときわ大きな歓声が上がった。
姫殿下を誘導してきたのは、シャルロッテだった。
3人が揃ってバルコニーに立った。
結局、アルベルティーナの国民的人気の前に、広場に集まった人々のネガティブな声は、完全にかき消されてしまったのであった。
「まぁ、美人の微笑みに勝るもの無しってこと。間に合って、良かった。」
シャルロッテは、レメリスからの封書鳥を受け取って事情を知り、その手紙をそのままアルベルティーナに送ったという。
エルリッヒとアルベルティーナの2人は、先代国王とは母親が違っており、それもあってか、特に仲が良かった。
「ティナ様なら、絶対に助けてくださるって思ってたの。」
果たして、アルベルティーナは、円形広場へと向かい、アルランメディエ王国の1輪の薔薇と称えられる微笑みを武器に、弟の危機を救ったのだった。




