調合72
シャルロッテの同級生たちも手伝いに来たため、解毒水の調合はかなりスムーズに進んだ。
「これ、もう魔法インクが切れてきたみたいだぜ。」
魔方陣判子も大活躍。そして補充用の魔法インクも作る必要が出てきた。
「分かった。それじゃ、魔法インクはそっちの調合鍋で作るから。」
シャルロッテは、実習室の奥の、巨大な鍋を指さした。
材料を揃えたシャルロッテは、鍋に、フクド豆とメル粉を1:1の量で入れた。そして精製水を注ぐと、同属性同士用の魔方陣を描いた大きな魔法紙を、鍋に蓋をするように置いた。
魔方陣は緑の光を放ち、鍋全体を包む。
光が消えると、鍋の中には濃い赤褐色の液体ができていた。
引き続き、鍋の中に、オークいぼを、どばどばと入れていく。
そして、またしても、同属性同士用の魔方陣を描いた大きな魔法紙を、鍋に蓋をするように置いた。
やはり、魔方陣は緑の光を放ち、鍋全体を包む。
光が消えると、鍋の中に、魔方陣判子用の魔法インクが完成していた。
「あの……、これだけ大量に作ることができるなら、解毒水も鍋で作ったらよかったのでは?」
私は、シャルロッテに尋ねた。
「それがダメなんだなぁ……。試しに鍋で解毒水を調合したこともあるんだけど、大失敗でね。」
「解毒水は、鍋調合には向かないのです。微妙な扱いや繊細な作業が要る調合品は、少量ずつ調合しなければ品質が低くなります。」
アンジェリドが実習室に入ってきて、そう言った。
「エリーチェ、あなたは、課題の解毒水を、教科書通りに調合しましたね。リッカ吸収炭を非常に細かく粉にして。」
何か、間違っていたのだろうか? 課題提出の時に、シャルロッテに教わらずに1人で調合したことがバレていたようだったが……。
「シャルロッテは、細かい作業が苦手なのです。適当に砕いただけのリッカ吸収炭を使うので、解毒水の品質もあまり良いとはいえません。」
見ると、シャルロッテは、俯いて、小さくなっていた。
「調合されたものを見ると、調合した人物、その人物を指導した者が、はっきりと分かります。性格が現れるのですよ。」
実習室にいた者全員が、ぎょっとした顔で、アンジェリドを見つめていた。
あちこちの工房で働いている現役職人であるシャルロッテの同級生たちにも、魔方陣判子は、概ね好評だった。
「こいつ、俺も使いたいな。補充用の魔法インクも材料はそれほど高くないし。アルブレヒト工房に依頼するわ。」
「独自の工夫を加えた魔方陣も、判子にしてもらえるのかな? 俺、一時、調合速度の改善に凝って、魔方陣設計やり込んだから、ノートに記録してあるんだよな。」
「ロティって、学生時代から、色々変わったもの作ってたもんな。今じゃ、封書鳥は、国中に広まってるし……。あれ、権利は国に買い上げられたんだったっけ?」
へ? 封書鳥のテストに参加した、だけじゃなくて、そもそも、シャルロッテさんのアイデアだったの?
「ははは。封書鳥はね、アンジェリド先生に、“こんな危険なものは、あなた1人に任せるわけにいきません”って言われちゃって。考えてみたら、危ないものを送り付けることもできるもんね。実用化に際しては、いろいろ制限付けられたけど、結果それで良かったよ。」
「それにしても魔女1世は、健在だよな。さっきはビビったわ。いまだに、口頭試問で、答えに詰まる夢とか見ることあるし……。」
「俺もだ。変なもん作れないよな。っていうか、この解毒水、それぞれ誰が調合したか、分かっちまうよな。やべえ。」
「なぁ、混ぜちまうか? 俺、仕事で扱ってるの、魔物から採れる骨とか牙とかなんだけど。リッカ吸収炭なんて調合に使うのは、久しぶりなんで、大目に見て欲しいよ。」
「馬鹿だなぁ。混ぜたら、混ぜたことが、バレるだろ~が。まぁ、説教されるのは覚悟しとけ。」
それぞれ、ガラス容器や、乳棒、乳鉢といった道具を手にしながら、雑談は続いている。
が、解毒水の入った薬壜は、その数を確実に増やしていったのだった。




