調合7
「妖精の樹って、妖精が枝に生るんですか?」
私は、羽根が生えた蝶々みたいな生き物が、枝から大量発生する様を思い浮かべてしまい、少し気分が悪くなった。
「ぶっ。ゲホゲホゲホっ。」
隣で、グランが咳込んでいる。
「シャルロッテ、あなた、どんな説明をしたのですか?」
ジロリとアンジェリドが、シャルロッテを睨んだ。
「し、してません。妖精の樹については何も説明していませんっ!」
シャルロッテが、慌てて否定する。
「えっと、妖精の樹というのは、王城敷地内に生えているおっきな老木のことなの。妖精さんが大事にしているという話ではあるんだけど、別に、枝から妖精さんが生まれてくるわけじゃないのっ!」
そ、そうだったんだ。勘違いで良かった。
私は、ほっとしたが、シュヴァルツデュエルからは胡乱な目を向けられた。
「一昨日の真夜中過ぎ、つまり、君が倒れているのが発見される前になるのだが、王城敷地内で、突然、強い光が発生し、騒動になったのだ。」
シュヴァルツデュエルによると、その光は城内で眠りについていた人々をも目覚めさせ、寮内にいた騎士団員は、光の発生源を突き止めるため、急遽、飛び出したそうだ。
「すぐに、王城南の1本の大樹が光を発しているのが発見されたが、何が起こっているのか、危険性があるのか、その場にいた者は誰も分からず、警戒体制のまま夜明けを迎えたのだ。」
各部署に封書鳥が飛ばされ、騎士団員、兵士、衛士は、休暇日だった者も全員が叩き起こされ、大変なことになっていたらしい。
「結局、夜明けとともに光は消えたのだが。」
妖精の樹と呼ばれているものの、どんな由来があるのか正確なことを知る者が誰もいないのだそうだ。
「先代国王ノイヴィセント5世陛下の側近の1人が、妖精の招かれ人が現れたのではないかと言い出し、今度は、ザラの各所で、招かれ人探索をする破目になった……。」
シュヴァルツデュエルが、遠い目をして言った。
うっわぁー。大迷惑。
「夜になって、騎士団員のマグダレスが駆け込んできて、冒険者グランが情報を持っているようだと報告があった。」
直ちには、シャルロッテの工房へ乗り込まなかったのだが、工房周辺から貴族街へ向かう道にかけて大勢の見張りが動員されたという。
「お騒がせしました。」
私は、がっくりと項垂れた。
「妖精の招かれ人については不明な点が多く、言い出した側近も、亡くなった母から聞いた話だとかで要領を得なかったのだ。しかも、シャルロッテの工房内に身柄が保護されているという情報だったので……。」
「シャルロッテさんは騎士団長さんからも信用されているのですね。」
「……、否、シャルロッテの工房に急襲するとなると、周辺への甚大な被害が予想されるからだ。小爆弾、中爆弾、大爆弾、さらにヤバ……、もとい、高性能な火力が貯蔵されているからな。迂闊なことはできぬ。」
つまり、火薬姫の名は、王城騎士団長にまで知られているのですね。
そこで、錬金術師養成学校の校長ならば、古い事物を知っていそうだということになり、調査を依頼したという。
「まぁ、わしもパンドラ大陸におったころ、妖精の招かれ人についての記載を読んだことがあるだけなんじゃが。」
コーネルは、菓子を齧り、茶のおかわりを少女に頼んだ。
「妖精の樹というのは、パンドラ大陸には無くてな。むしろ、アルランメディエ王宮図書館の方に記録が残されているのではないかと睨んだのじゃ。」
コーネルは、おかわりの茶に口を付けた。
「アルランメディエには、古い記録を粗末にする馬鹿者がいなくて、幸いじゃった。」
一瞬の間の後、私たちの入ってきたドアのノッカーが3回鳴らされ、皆の視線が、ドアの方向に集まった。




