調合69
前菜の次には、スープが出された。
「オドリタケのスープにございます。」
結局、干しオドリタケはスープの素材になったらしい。
黄金色の透明なスープに、薄くスライスされたオドリタケが数枚、踊るように漂っていた。香りと色から、醤油は使っていないようだった。しかし、意外なほどに濃厚な旨味が感じられた。
「このスープには、ソフ海老が入っていないようだな。しかし、これはこれで、良い味だ。この薄っぺらいのがオドリタケか?」
エルリッヒがカポチェットに、尋ねる。
「はい、スライスしたオドリタケにございます。干しオドリタケからとれる出汁と、マルネギ、キャベ人参などの野菜を長時間煮込むことで得られるスープを合わせ、シンプルに塩で味を調えたものですが、ソフ海老とはまた違った濃厚な味わい。これは、必ずや、陛下のお気に召すかと。」
ヴォルフガングもジークフェルドも、表情が和らいでおり、あっという間に、スープ皿が空になった。
一方、シャルロッテとグランと私は、慣れない作法に、ややぎこちない動きになりつつも、やはり、ほぼ同時にスープを片付けた。
「白身魚の醤油バター焼き、ジャコ貝餃子添えにございます。」
白身の柔らかい魚に醤油とバターの組み合わせは実に合っていて美味しかった。餃子は、コース料理に合わせて上品なものに変わっていたが、ジャコ貝のほぐし身と刻み野菜の具は、醤油とも合っていて、これ単独でもご飯と食べたら最高なのに、と思わせた。
醤油を既に口にしたことのあるエルリッヒと私たち3人は、魚料理の皿も、さっさと片付けた。しかし、ヴォルフガングとジークフェルドは、互いの顔を見合わせていた。
「……実にユニークな色であるな。これで新しいインクを創ったと聞いたが……。」
ジークフェルドは、エルリッヒの皿が空になっていることに気が付いた様子で、おもむろに、醤油を付けた餃子を口に運ぶ。
「このパリパリとした表面とモチモチした感触は、面白いな。実にユニーク。そして美味だ。」
「これが、シャルが自慢していた餃子か? しかし、刻んで柔らかくした肉が入っていると言っていたぞ。受け取ったレシピにも、肉と書かれていたはずだ。」
ヴォルフガングは、渡された課題のレシピにも目を通していたらしく、違いを指摘してきた。
「餃子は、麦粉で作った皮に具材を詰めて作る料理で、具材、つまり中身は必ずしも肉ではないのです。さらに、これは焼き餃子ですが、焼かずに茹でて、スープに入れて食べる方法もあります。ツルんとして、美味しいですよ。」
私は、カポチェットの代わりに餃子について説明した。
「次は、その肉が入っていて、スープに入れて食べるタイプも、試してみたいな。カポチェット、頼むぞ!」
エルリッヒからは、水餃子のリクエストが飛び出した。
顔色は悪くない。大変そうだが、元気にしているようだった。
「陛下はお肉の方がお好みですか?」
私は、エルリッヒに声をかけてみた。
「そうだな、肉の方がよいかな。本当なら、ロティの工房へ行って、一緒にレシピを考えてみたかったのだが、今はもう叶わぬ。だが、私のことを気遣ってくれて、嬉しいのだ。できれば呼び名も、エルのまま、変えずにいて欲しい。」
エルリッヒは、やはり、そう簡単には、王城から出られない状況になってしまったようだった。溜息が零れた。
「グラン、この度は、本当に助かった。状況も分かってきたし、解毒水や無属性の魔力の影響で、ガタパライムの動きが鈍ることが確かめられたのは大きい。国軍と王城騎士団が協力体制を取る方向も決定した。最終的には、民間の冒険者の手も借りねばならぬと思うが、その時も助けてもらえるだろうか?」
「当然だろ。あ、当然です? ます? あれ? え、エルとは立場とか、全然違うって、はっきりしたけど、それでも、友達でいてもらえるなら、俺は、助けに行くから……。」
「ありがとう。グラン、ロティ、エリーチェ。これからもずっと、友達でいて欲しい。」
「エル、大丈夫だよ。心配ないからね。」
口直しのさっぱりしたソルベが出され、少し落ち着いたところで、今後の方針などの話が出た。
国軍の人員から見張り役が増員となり、結果、ガタパライムの出現回数や数の報告が、間を置かずに入ってくるようになった。油断できない状況であることが数字的に明らかになり、フール川の東岸側に、解毒水の貯蔵施設を急遽造ることになったこと、その解毒水の製造をギルドと錬金術師養成学校に分担させる方針であることなどが、語られた。
「民間の冒険者に協力を仰ぐ場合は、私が、皆の前へ出る。現場への移動手段として、馬車の借り上げを検討しているが、急には馬が集められぬ。場合によっては、かなりの負担を頼まねばならぬことになりそうだ。」
急に、その負担が増えたエルリッヒは、やはり、苦労しているようだ。そういえば、先代国王はどうしているのだろうか?
「ところで、先代国王陛下とは、まだお会いしていませんが、お忙しいのでしょうか? 挨拶だけでもしておきたいのですが。」
私は、ヴォルフガングに尋ねた。
「それは残念だったな。もうこの王城にはいないのだ。エルに王位を譲って、というか押し付けた後、離宮に移って戻ってこぬ。」
一体、どういうことなのだろうか?




