調合68
工房の前に、特別な印のない普通の箱型馬車が到着し、私たち3人は、素早く乗り込んだ。
そして、馬車は、そのまま、王城へと向かったのだった。
「お待ちしておりました。足元にお気を付けてくださいませ。」
王城で出迎えてくれたのは、またも、王宮図書館司書のローレンツだった。
「こんにちは。本日はよろしくお願いします。会場は図書館の方に変更になったのですか?」
私は、ローレンツに尋ねた。
「いいえ。お食事会の会場は、予定通り、ジークフェルド殿下の私室でございます。これより、案内申し上げます。」
ローレンツは、司書でありながら、他の仕事もいろいろ任されているようだ。
私たち3人は、ローレンツの後に付いて王城の中へ入った。
長い廊下を抜け、奥の方へと進み、途中までは以前に来た順路と同じだったが、前回とは反対の方向に曲がり、1つの扉の前に到着した。
ローレンツが扉のノッカーを3回鳴らすと、中から「誰だ?」と声がした。
「本日のお客様の御到着でございます。殿下。」
ローレンツが扉に向かって返事をすると、扉は開かれた。
「ようこそお出でになられました。中へお入りくださいませ。」
部屋の中からは、50代くらいの落ち着いた雰囲気の女性が現れ、私たちを迎えてくれたのだった。
部屋の中は広く、中央にテーブルが置かれてあり、上座にエルリッヒ、そしてやや下手の方にヴォルフガング、ヴォルフガングと同じ髪の色のやや若い男が並んで座っていた。
「この様な格好で失礼する。ようこそ。妖精の招かれ人たるエリーチェ=コー殿。お初にお目にかかる。ジークフェルド=ミッターフリーデン=ファン=アルランメディエだ。本日は、よろしく頼む。」
ジークフェルドの左眼は大きな傷跡で塞がれ、右脚は義足だった。しかし、しっかりとした足取りで私の方へ歩み寄り、私の手を取り、その額を近付けた。
「お初にお目にかかります。エリーチェ=コーでございます。この度は、無理をお願いいたしました。お聞き入れいただき、ありがとうございます。」
「お初にお目にかかります。シャルロッテ=ベロアでございます。殿下にお目通りが叶い、感謝いたします。」
「お初にお目にかかります。グラン=ソアレムでございます。殿下に拝謁させていただき誠に光栄に存じます。」
「3人とも、本来は、陛下との場であったのに、兄上が無理を申した。しかし、私も、参加させてもらえて嬉しく思う。」
私たち3人もテーブル席に着いた。一応、“国王の賓客”を利用して私の名で食事会を提案したことになっており、2人よりも上座になっているのが、落ち着かない。
「では、始めさせていただきます。」
王宮料理人カポチェットが、うやうやしく宣言し、それぞれの前には、前菜の皿が並べられた。
「フルーツとドラコサーモンの燻製にございます。エリーチェ殿から教わったマヨネーズなるソースを添えてございます。是非是非、御堪能くださいませ。」
淡い黄色と鮮やかな緑の2種類の柑橘系のフルーツと、こちらの世界のスモークサーモンが花びらのように並べられた一皿。マヨネーズは本来、酢を使うが、今回は、代わりにレモンに似た果汁を使って作られたもので、よく馴染んでいた。
「ほう、これは、旨い。割り込んだ甲斐が……、ではなくて、たまには、ミッチと陛下と私とで食事を共にして、交流を持つのも悪くないと思ったのでな。うむ。実に良い。エリーチェ殿、このような会を提案していただき、誠、感謝する。」
この微妙な雰囲気となった食事会を、実に満足気に楽しんでいるヴォルフガングなのであった。




