調合66
王宮料理人カポチェット=ルキノが工房に訪れたのは、仔細が決まった翌日だった。
「この日が来るのを、どれほど待ち焦がれたか。あぁ、エリーチェ殿、お会いできて、感激であります!」
いきなり、両手で握手された。
「陛下よりお話を伺って依頼、是非是非、お会いしたいと。そうだ、お見せしたいものがあるのです。」
カポチェットは、背負い籠を降ろし、中から箱をいくつか出して机の上に置いた。
「どうでしょうか?」
カポチェットが箱の蓋を開けると、中に、乾燥したキノコと乾燥した貝柱が入っていた。
「これはオドリタケを干したもので、こちらはジャコ貝の貝柱を干したものです。正直、食材をこういう加工にしたものは、これまでこの国にはありませんでした。是非是非、エリーチェ殿の意見をお聞かせ願いたい。」
オドリタケって、まさか……。
「うわぁ、すっかり縮んじゃって……。オドリタケって乾燥すると、こんなふうになるんだ。」
シャルロッテが摘まみ上げて、言った。
「オドリタケって、踊る?」
「そうそう。前に、ギルドで話したっけ。ガタパライムと同じレベルの低い魔物で、新人冒険者向けの依頼だって……。」
オドリタケも、レベルが低いため討伐報酬自体は低賃金である。が、ガタパライムと決定的に違う点があった。
「美味しいのよね。一番は、捕ってすぐに網焼きにして、塩して食べるの。」
新人冒険者は、ギルドを通じてパーティーへ入ることになっていて、初めて受ける依頼は、大体がオドリダケ討伐なのだそうだ。
「網焼き用の網は必需品。討伐依頼完了と同時に、新人のための焼きオドリタケパーティーになるんだよ。」
エルリッヒは、スープのレシピとソフ海老を王宮料理人の渡し、私が話した醤油や味噌、出汁についても説明したのだという。
「ソフ海老の素晴らしさは、すべての王宮料理人を魅了いたしました。で、あれば、干した海藻、干した魚、干したキノコ、干した貝柱、これらも是非是非、入手しなくてはと。残念ながら海藻と魚に関しては、良品が得られていませんが、オドリタケとジャコ貝は、いかがでしょう?」
いかがでしょう? と聞かれても、こっちは一般人で、とても王宮料理人にアドバイスできるような立場ではない。
私は、カポチェットに、家で自分のための料理しか作ったことがないことを、強調した。
「まったく問題はございません。エリーチェ殿の持ち込まれた新しい味を学び、それを私共がどう生かすかは、あくまでも、こちら側の問題なのですから。醤油についても、同様です。」
カポチェットによると、アンジェリドに提出したレシピ3品は、その日のうちにエルリッヒとヴォルフガングの下へそれぞれ届けられたらしい。
「お二方は、ほぼ同時に、調理場の方へレシピを持ってお出でになりました。しかし、残念なことに、肝心の醤油がございません。」
現時点で、この国に醤油は、私の手元に残された分だけ。錬金術で作られた“醤油”は使えないので、あのレシピは、渡されても何の役にも立たないものだったのだ。
「しかし、アンジェリド殿はさすがです。“これは、あくまでも私の勘でございますが、近々、陛下はこのレシピの料理を口にする機会に恵まれましょう。”と言ったのです。ヴォルフガング殿下は非常に悔しがっておられました。」
アンジェリドの予想通り、シャルロッテから食事会の許可を求める封書鳥が届いたことを知り、エルリッヒは喜んだという。しかし、王宮図書館長にして対ガタパライム防災対策室長兼任となったヴォルフガングから、お忍び行為の厳禁を言い渡されてしまった。
「結局、殿下の主張が通り、ジークフェルド殿下のお部屋にて食事会が開催される運びとなったわけでございます。是非是非、成功させねばなりません。そうそう、アンジェリド殿は、餃子なる料理を絶賛されておられましたぞ。これは、是非是非、エリーチェ殿から直接教えていただきたい。」




