調合65
「エル、参ってるだろうな。」
夕食後に、調合室に移動してから、シャルロッテがポツンと呟いた。
「色々ありましたものね。」
思えば、エルリッヒは少し前までは、自分は何も知らされず、先代国王とその側近がすべてを取り仕切っていると嘆いていたわけだが、今や王国全体の状況が変わりかねない。
ずっと引き籠りを決め込んでいたヴォルフガングの再登場もあって、王城内は、ちょっとした騒動になっているはずだ。
グランの報告も、ガタパライムの問題は現在進行形であることを示している。
「一応、私、国王の賓客って立場は変わっていないんですよね?」
「そうだけど。何? 何か思いついた?」
「あの、問題解決にはまったく寄与しないのですけど……。エルさんとお食事会をするのはどうかな? って。」
「お食事会?」
「結局、エルさんと約束した新しいレシピ、全然できてなかったじゃなかったないですか。アンジェリド先生の方に3つレシピを提出したので、それは、先生からエルさんの方にも報告されてると思うので、別のものがいいでしょうけど……。」
私は、結局、アンジェリドに1回食べさせた餃子と、醤油ベースのスープ、醬油で味付けした野菜炒めの3品のレシピを課題として送った。今回は、封書鳥で送ったが、アンジェリドからは受け取りの報告のみで、お小言が書かれた手紙は来ていない。
「でも、工房の方へ出向いていただくのは難しいですよね。」
「いっその事、乗り込みますか?」
「それは、さすがに、ちょっと……。」
少し考えるように、暫くの間、シャルロッテは黙って机の上の壜を見ていた。
「エリーチェちゃん。グランが戻ってきたら、悪いけど、やっぱり、一緒に乗り込もう! エルに、美味しいもの食べさせてあげよう。」
グランたちが戻ってくるのは、1週間近く後の予定だ。
戻ってきたら王城へ出向き、報告をすることになるだろう。
シャルロッテは、それに合わせて、エルリッヒとの面会約束を取り付けられないか、アンジェリドを通じて交渉すると言い出した。
「エルは、これからも、……この先も、力になって欲しいって言ってたよね。立場は全然違うし、……でも、やっぱりエルのことは、友達だと思ってるの。エリーチェちゃんには悪いんだけど、国王の賓客っていうのを利用させて。」
シャルロッテとアンジェリドとの間で、何往復かの封書鳥のやり取りが行われ、結果、食事会は許可された。
ただし、こちらが考えていた4人の食事会ではなく、ヴォルフガングとジークフェルドが加わることになってしまった。
事前にメニューのレシピを提出し、調理自体は、王宮料理人の手で行われる。
そして、醤油は、現状、私の手元に残されたものしかなく、錬金術で作られたものは、安全性が確実と認められていないため、王族の口には入れられないということで、メニューに用いるのであれば、残りの醤油を王宮料理人に引き渡さなければならない、ということであった。
「錬金術で作られたワインって、どういう扱いになってるのですか?」
「確か、3年間テストした上で、一般流通の許可が下りたはず。最初の頃は、錬金術師だけが、テストのために飲んでた。ただ、許可が下りた後も、王族は飲んでないと思うよ。昔からの製造法で作られた、しかも高級なものしか、納品されないだろうし。」
「シャルロッテさん、塩が入った調味料としての醤油も、作ってくれますか? 私も、錬金術師の秘書として、テストに加わってもいいはずですよね?」
「……、分かった。」
私は、ヴォルフガングから贈られた醤油の残りを手放す決意をした。




