調合61
シャルロッテと私は工房に戻ると、買っておいたフクド豆を使って、錬金術で醤油を調合することが可能か、試すことにした。
似ている材料ということで、フクド豆とメル粉と塩である。
「フクド豆もメル粉も木属性同士、触媒剤は要らない。ところで、この場合の塩はどういう意味合いがあるの? 調味料として必要? インクの材料としては、むしろ塩は無い方がいいのだけど……。」
「本来は酵母菌という微生物の力を借りる発酵という方法で作られるんです。酵母菌以外の微生物が繁殖しないように塩を入れる必要があるんです。もちろん、塩分は調味料としての必要でもありますが。」
「エリーチェちゃんの元いた世界だと、チーズやワインも発酵だって言ってたよね。」
「はい。」
「だったら、とりあえずインクの材料としては、塩も要らないよ。ワインも錬金術で調合できるけど、塩使わないもん。」
シャルロッテは、フクド豆とメル粉を1:1で混ぜ合わせ、それをガラス容器に入れた。そして精製水を注ぐと、同属性同士用の魔方陣を描いた魔法紙の上に置いた。
魔方陣は緑の光を放ち、ガラス容器を包む。
光が消えると、ガラス容器の中には濃い赤褐色の液体ができていた。
「成功かな?」
シャルロッテは、1滴、指に垂らして舐めていた。
「とりあえず、塩辛さはないね。」
シャルロッテは、引き続き、錬金術で調合した“塩無し醤油もどき”を材料に、インクの調合に取り掛かった。
何やら丸い木製ビーズのようなものを出してきて、それをガラス容器に入れ、“塩無し醤油もどき”を注いだ。
「その丸いのは何ですか?」
「オークいぼだよ。オークの木に付くの。これは魔法インクの材料の1つなんだ。これも木属性。」
再び、同属性同士用の魔方陣が描かれた魔法用紙をひろげて、中央にガラス容器を置く。
またもや魔方陣は緑色の光を放ち、ガラス容器を包んでいく。
光が消えると、ガラス容器の中に、今度は黒色の液体ができていた。
シャルロッテは、アルブレヒト工房から届けられた判子の試作品に、出来上がった黒色の液体をしみ込ませたスポンジを装填した。
「エリーチェちゃん、手袋、きちんとはめなおして。新しい魔法紙を準備してね。」
私は、言われた通りに、新しい魔法紙を広げた。
「では、エリーチェちゃん、魔方陣判子、押してみて!」
私は、直径20㎝ほどの大きな判子を両手で持ち、慎重に、魔法紙の上におろした。そして、ポンっと押して、ゆっくりと判子を持ち上げた。
「わぁ、モードが描いた魔方陣が、ちゃんと再現されてる! 歪んでない!」
魔法紙の上に、黒色のインクで描かれた魔方陣を見て、私たちは、喜びに包まれた。
「これで、何か調合しませんか?」
「そうだね。実際に使えるか、試さないと。……まぁ、やっぱり解毒水だよね。」
試作品の印面は、水属性と無属性の材料を合わせるための魔方陣。
私は、リッカ吸収炭を粉末にする作業に入った。乳鉢と乳棒で、細かい粉末を作ると、それをガラス容器に入れ、精製水をゆっくりと注ぎ込む。そして触媒剤を1つ入れ、判子で押した魔方陣の中央に静かに置いた。
魔方陣は全体が黒ずみ、容器は魔方陣から立ち昇った黒い闇に包まれる。
しばらくして、黒い闇は消えた。
ガラスの容器内には、あの淡い紫色の美しい液体ができていた。




