調合59
「解毒水をかけたら……、どうかな? と思うんです。先程、ドルファーが述べたように、ガタパは粉末リッカ吸収炭、粉末ツサク結晶を混ぜて調合すると、強度と弾力が変化します。硬くなるんです。」
「ふむ。」
「どちらかというと、粉末リッカ吸収炭の方が影響力は大きいと考えられます。体を構成しているガタパが硬くなれば、動きも鈍ると思われます。あと、無属性の魔力には耐性は無さそうなんで……。」
「ヴォルフガング、無属性の魔力持ちの魔術師に心当たりはあるか?」
エルリックは、ヴォルフガングの方を見て尋ねた。
数秒の沈黙の後、ヴォルフガングは、答えた。
「……心当たりは、ある。……ジークフェルドだ。」
現在、アルランメディエ王国内に、火属性、水属性の魔力持ちは、それなりの人数が確認されており、特に近衛魔術師には、両属性の魔力量の多い魔術師がいるらしかった。
しかし、無属性の魔力持ちは、そもそも珍しいらしく、近衛魔術師の中には、一応使えるレベルの魔術師が1人いるだけだと、エルリッヒは言った。
「まず、国軍に協力を要請し、フール川東岸側に見張りの増員が必要かと。あと、実際に、ガタパライムに解毒水をかけた場合どうなるか? 確認せねばなりません。」
それまで無言であったシュバルツデュエルが建設的な提案をした。
「有効であった場合、……解毒水は増産可能か?」
「材料となる精製水とリッカ吸収炭に関しては、まったく問題がないと思われます。触媒剤は……、まぁ、学生も動員すれば、ある程度の確保は可能でしょう。問題は、魔方陣ですね。無属性が絡む魔方陣は他のものに比べてやや複雑な構造をしているので、描き慣れた者でも、水属性と無属性の材料を合わせるための魔方陣を用意するのに時間がかかると考えられます。」
アンジェリドが即答した。
「ドルファー親方? 例の金型はどうなったの?」
モードリンがドルファーに、声を低めて尋ねた。
「あぁ、問題なく完成している。シャルロッテのサンプルも試した。塩の問題も解決している。ついでに、筒と蓋も完成済みだ。……あとは、魔法インクの問題が残ってるがな。」
「じゃあ、水属性と無属性の組み合わせの印面のものだけ、先に、増産を始めることは、可能なのね?」
「まぁ、専用の魔法インクがダメなら、すべて無駄になっちまうがな。あと、解毒水とは、リッカ吸収炭が材料被りになるな。まぁ、あれは、それこそ学校で溜めといてもらえば何とかなりそうだが……。」
と、すると、問題は、インクの材料候補としての醤油の確保……なのか?
私は、気になっていたことを尋ねることにした。
「殿下。先程、ヤヴァ川下流域で採れる作物として、フクド豆を挙げておられましたよね。フクド豆って煮豆ぐらいしか用途がないのかと思っていましたが、生産量自体は多いのですか?」
「フクド豆は、確かに煮豆になるが、どちらかといえば、食用というよりも家畜の餌だな。フクド豆を餌にすると肉質が上がるらしい。」
「シャルロッテさん、例のインク、材料として、醤油が有力候補なのは間違いないですか?」
「え? もちろんよ。でも、今、その話題は……。」
「豆の種類が分かったら、錬金術で、醤油が作れるかもしれないとおっしゃっていませんでしたか? フクド豆は、大豆、私が知っている醤油の原料に似ているんです。」
私の言葉に、モードリンとドルファーが反応した。
「だったら、魔法インクの改良を急ぎましょうよ。そしたら、魔方陣の件も、解決するわ。石以外を相手にするのは久々だけど、私もやるわよ!」
「まず、ショウユとやらを調合する必要があるんだな? もう少し具体的に説明してもらえんか? うちの工房でも協力できるかもしれん。」
その場で、魔方陣判子計画は、国王と黒幕殿下、王城騎士団長、そしてよりにもよって、アンジェリドの知るところとなった。




