調合56
「私なりの復讐さ。まぁ、虚しいものだったが。いまだに、ジークフェルドは、自室から出ることが叶わぬ。そして、そのことで、更に自身を責め続けている。」
「ロティ、じゃなかった、シャルロッテは、4年前に、全てを知ったのですか?」
グランが尋ねた。
「どうだったかな? 私と弟は幽閉などされていない、ということと、詳細は伏せた上で、ジークフェルドが表に出ることができなくなった、それによる混乱を防ぐ必要があるので、黙っているように。そんなところか?」
「はい。詳しい話は、たった今、知りました。」
「事実を知る者は、わずかだ。先代国王と私、ジークフェルド本人、それぞれの側近、王城騎士団第1部隊隊員。先代国王の弟妹のうち年齢が高い者は知っているが、陛下は知らなかったはずだ。」
「私は、昨日、初めて知った。」
エルリッヒも、頷いた。
「教育係の両親は、ともに魔術師で、現在も近衛魔術師として王城に留まっている。従者の両親のうち父親は病で亡くなったが、母親は、ジークフェルドの側仕えだ。やはり、王城に留まっている。」
「なぜ、今、それを私たちに話すのですか?」
私は、話の重さと、今日集められたメンバーとに、関係を見出せずにいた。
「私が承諾したら、シャルロッテは、エリーチェ殿とグランに話すことになったと聞いたが?」
「すまない。其方らにも全部を話して欲しいと希望したのは、私なのだ。」
エルリッヒの希望で、このメンバーが集められたと、説明がされた。
「私が、其方らに、知らなくてよい、と言いたくなかったのだ。これからも、……この先も、私の力になって欲しい。だから、今の状況を、知っておいて欲しいのだ。」
エルリッヒは、15年間、蚊帳の外に置かれていたことが、余程、ショックだったようだ。しかし、そう簡単に話せる話題でもない。当時のエルリッヒは、まだ幼子だったはずだ。
「……それから、今日の本題は、15年前の事件について、ではない。」
エルリッヒは、少しおいて、言葉を続けた。
「それでは、今日の本題に入る。マグダレス、状況を説明してくれ。」
「はっ。先日、我々、王城騎士団第4部隊が受けた、この1年間の、魔物討伐要請とその状況について、いささか、気になる点がある、という報告が上がってまいりました。」
王城騎士団は第1部隊が国王個人の護衛を担当する真の意味での近衛部隊で、第2部隊は王族の護衛および王城の防衛、第3部隊が王都ザラの防衛を担当している。そして、第4部隊はザラを含む周辺地域の魔物討伐専従部隊である。
マグダレスの説明によると、ヤヴァ川の支流フール川の東岸側からの要請が、前年、つまり2年前に比べて3倍に増えているということだった。
「要請の対象となった魔物自体は、さほど脅威になるものではなく、ただ、数がやや多いということで、実際、部隊内でも、重大事とは考えられておりませんでした。」
しかし、統計報告をまとめた際、さすがに3倍は多過ぎないか? という疑問が出たという。
「して、その魔物とは何なのだ?」
「ガタパライム、でございます。」
「ガタパライムというと、あれか? その、……ブニョブニョの?」
ヴォルフガングは、何かを思い出したように、嫌そうな顔をした。
「あぁ、かつて、1度だけ、作戦担当として、王城騎士団第4部隊に同行したことがあるが、その時にも出たな。……まったく、歯が立たなかった。」
中継都市カーザ周囲に大火蜥蜴の襲来が報告され、その討伐遠征途中で、ヴォルフガングは、ガタパライムと遭遇したという。
「いきなり、5匹が目の前に跳ねて現れたのだ。私は、切り捨てようとしたが、ブニョブニョとして剣は滑るばかりで無駄だった。結局、従者が叩きつぶしたのだ。」
ちぎれた、ゲル状の断片が、あちこちに散らばって、大変だったそうである。
「殿下、あれは、核の部分を叩くのです。そうすれば、簡単に退治できます。」
「後から知った。残念ながらな。」
実際、ガタパライムは単独では弱い魔物であり、普通の農民でも農具で退治してしまうという。しかし、複数となると話が違ってくる。ばらばらに跳ね回って、なかなか核を狙うことができず、苦戦するらしい。
そして、ここ1年、原因不明のガタパライムの中規模発生が立て続けに起きているようなのだ。




