調合55
扉のノッカーが3回鳴った。
「到着されたようです。」
ローレンツは、そう言うと、扉の方へ向かい、そして向こう側にいた来訪者を迎え入れた。
それは、シュバルツデュエルと、揃いの黒色の板金鎧に紺のマントを身に着けた若い男だった。
「王城騎士団団長、シュバルツデュエル=クラウニスタ。陛下のお呼びにより参上仕りましてございます。」
「同じく王城騎士団第4部隊隊員、マグダレス=リグシュタイン。陛下のお呼びにより参上仕りましてございます。」
マグダレスという名には聞き覚えがあった。確か……。
「改まった時の服って、プロポーズじゃなかったんですか? てっきり……。」
グランにかけた声が、静まり返った部屋に響いた。
それで、おしゃれ服……。
「あぁ、その、なんだ、全員揃ったようだな。」
ヴォルフガングは、後から入ってきた2人にもテーブル席に着くよう促した。
「皆に集まってもらったのは、急遽、相談したき儀があったからだ。非公式とはいえ、やや、問題がある内容ゆえ、他言無用としてもらいたい。」
エルリッヒが話はじめた。
「その前に、15年前の事件について、ヴォルフガングより説明をしてもらう。」
「承知いたしました、陛下。」
ヴォルフガングは、その弟、ノイヴィセント5世第2王子、ジークフェルド=ミッターフリーデン=ファン=アルランメディエの身に起こった事件について語り出した。
ジークフェルドは、ヴォルフガングの2歳下。生まれた時より、膨大な量の魔力を持っていることが国中に知られており、皆に期待されていた。
「当時も今も、その魔力量を上回る人物は、アルランメディエ王国に出てはいない。それ故、真の意味で彼を導くことができる者など、存在しなかったのだ。」
しかし、ジークフェルドは決してそのことに奢ることはなく、むしろ、非常に真面目で勤勉、周りの者の期待に応えようと努力する人物だった。彼には3歳の頃から教育係として1人の魔術師が付けられていて、さらに同い年の従者がいた。
教育係に任じられた魔術師も魔力量ではジークフェルドに劣るものの、やはり、非常に真面目な人物であったという。
「膨大な魔力量であるが故に、制御することが難しく、訓練で大怪我をすることも稀ではなかった。しかし、止めようとはしなかったのだ。」
兄ヴォルフガングの目から見ても、危険であると思われた。また、教育係も従者も、ジークフェルドに無理をさせないように気遣い、更に、当時の国王ノイヴィセント5世に、無理を諫めてもらえるように、と上奏した。
「しかし、父は、それを無視したのだ。私の目から見ても、そして一番近くにいた2人から見ても、既に限界であったというのに……。」
ヴォルフガングは、魔力量の多い者だけに負担がかかる状況は好ましくないと考えており、海の向こうのパンドラ大陸で興った、魔術量が少ない者にも扱えるという錬金術について調べ、アンジェリドをパンドラ大陸に派遣した。
そして、遂には、父ノイヴィセント5世に、アルランメディエ王国にも錬金術を導入すること、王都ザラに錬金術師養成学校を創立させることを承諾させた。
「間に合わなかったのだ。……私たちは、ミッチを、そしてあの2人の忠義者を見殺しにした。」
無理を重ねた結果、ジークフェルドは訓練中に魔力の制御ができなくなり、暴走。助けようとした教育係と従者の2人は犠牲となった。
「とてもではないが、2人を家族の者に見せられる状態ではなかった。少数の者で、王城敷地内の王家墓地の隣に埋葬を済ませ、家族には、遺品のみが返された。」
教育係には、密かに結婚を約束していた女性がいた。女性は、2日後、自ら命を絶った。
ジークフェルドは、命こそ助かったが、ショックのあまり、自室から出ることができなくなったという。
「父には、私も死んだことにしろと言ったのだがな。まぁ、これ以上混乱を招くわけにもいかなかった。私は、情報をすべて統制し、宰相たちにも錬金術の導入を承諾させた。ジークフェルドに過度に期待していた者たちも、もはや、魔力量の多さで国を治めることなど不可能と理解したのだろう。それ以後は、余計な口出しはしなくなった。」
ヴォルフガングは、事件についての情報が漏れないようすると同時に、自身も表舞台から姿を消し、錬金術導入に全精力を傾けたのだと語った。
2人の王子が姿を消したこと、そして、急遽決まった錬金術師養成学校創設に関して、ノイヴィセント5世は沈黙を守った。
国民の間に、錬金術に興味を持った国王が、希望を無理に通すため、守旧派が担ぎ上げそうな王子2人を犠牲にしたという噂が広まったが、それもあえて消さなかった。




