調合54
「オットー、先に、私から話してもよいか?」
エルリッヒがその場の沈黙を破った。
後で聞いたのだが、どうも王族や貴族は、公式用の名と身内用の名を持ち、身内やごく親しい者は身内用の名で呼び合うらしい。
エルリッヒの場合も、ルドルフは公式用の名であり、私たちに身内用の名、更には愛称である“エル”で呼ばせていたことは、本人的には、嘘をついたことにならないようだった。
「もちろん、陛下のお好きなように。」
ヴォルフガングは、余裕の表情で答えた。
「朝から、皆に集まってもらうことになった。急なことで、さぞ、驚いたと思う。」
エルリッヒは、まだ、表情を硬くしたままだったが、テーブル席に着いた私たちの顔を順に見渡して、言った。
「ロティ、改めて、其方に感謝する。こうして、オットーと15年ぶりに対面し、話し合う機会が得られたのは、すべて、其方のおかげだ。」
「もう1人のシャルロッテは、存外に、口が堅かったようだがな。」
オットーことヴォルフガングが、口を挿んだ。
「存外、とは、どのような意味でございますか? 殿下。」
その声に、はっとする。アンジェリドは、なぜか、テーブル席には着かず、ローレンツと並んで立っていたのだ。
「いや、もう少し、対面の時は、早く訪れると思っていたのだ。4年前の時点で、エル、いや、陛下とシャルロッテ、それにグランは、顔見知りであったのだろう?」
ヴォルフガングは、更に、
「あ、もちろん、私のシャルロッテも、十分に、口が堅い。そうだな、ローレンツ?」
と、ローレンツに振った。
「仰せの通りにございます。殿下。」
ローレンツは、うやうやしく答えた。
「誰にも話すな、と命じたのは、他ならぬ殿下でございます。私は、それならば、せめて、御即位前までには、陛下に、お話になるべきと申し上げたはずですよ。お忘れでは、ないでしょうね?」
「シャルは、相変わらず手厳しいな。」
「あの、アンジェリド先生が、ヴォルフガング殿下のシャルロッテさん?」
私は、つい、口に出して言ってしまった。
「アンジェリド=シャルロッテ=ファナ=リンデンバーグ、それが私の名です。私は、7歳から、ヴォルフガング殿下に側近として仕えております。殿下、紛らわしいので、この場では、アンジェリドでお願いします。」
「先生、あの、リンデンバーグとおっしゃいますと……。侯爵家の?」
モードリンが、驚いた表情で尋ねた。
「リンデンバーグ侯爵家現当主は、私の父です。私は次女で、家から出て長いので、お会いすることもほとんどありませんが。」
アンジェリド先生って、侯爵令嬢だったんだ。何か、あんまり、綺羅綺羅しい感じがしないけど……。
「あっ。アルテ=シャルロッテ……。思い出した! アルテ=シャルロッテ=リンド。あの手紙の……。」
今度は、シャルロッテが声を上げた。
「そうです。シャルロッテ、あなたが間違って受け取った手紙は、私宛のものです。」
「おいおい、せっかく、口が堅いと褒めたのに、全部ばらすつもりか? アンジェリド。」
「この場に集まった者には、話す。そう決められたのも殿下です。ならば、隠す必要のないことです。」
ヴォルフガングは、あくまでも余裕の表情で、口振りもどこか、からかいの色を帯びていた。一方で、アンジェリドも、まったく普段と変わらぬ表情。余裕の無いところは見せていない。
7歳から側近だったって言いましたね。何時、如何なる時も、余裕の無いところを見せないって、それの成果ですか? 年季が……違い過ぎます。




