調合53
馬車は、途中で2回ほど止まったものの、ほぼスムーズに移動していた。
これから、どうなるのか? 少なくとも私の乗った馬車の中では、明るい予想は出なかった。
いざとなったら、唯一の切り札、“国王の賓客”を使うしかないよね。あ、でも、国王ってエルさんなんだっけ……。決定権、無さそうな雰囲気だったな。
切り札がフェイクである可能性を思うと、うかつなことも言えず、私は巻き込んでしまった2人に、心の中で詫びた。
そうこうしているうちに、馬車が止まった。そして、扉が開けられた。
「お待ちしておりました。足元にお気を付けてくださいませ。」
出迎えてくれたのは、王宮図書館司書のローレンツだった。
ローレンツに先導され、私たち6人はぞろぞろと王城の中へと入っていった。
長い廊下を抜け、奥の方へと進み、行き止まりとなったところに扉があった。そして、ローレンツが扉を開け、皆に入るように促した。
扉はさほど大きくなかったが、中へ入ると、そこには、アーチ形の高い天井付近にまでそびえる書架がずらりと並び、正に本のための空間が広がっていた。
さらに、ローレンツは、中央の通路を真っすぐに奥へ奥へと進んでいき、私たちも続いた。
王宮図書館の一番奥まで辿り着くと、そこには“館長室”と書かれたプレートの付いた扉があった。ローレンツは、3回ノッカーを鳴らした。
「お客様のお着きです。」
部屋の中央にはテーブル席があり、一番上座には、表情の硬いエルリッヒが座っており、その少し下手には、対照的にリラックスした様子の男が座っていた。
ローレンツが男に近付き、何事か囁くと、男は立ち上がって、私の方へと歩いてきた。
「ようこそ。妖精の招かれ人たるエリーチェ=コー殿。お初にお目にかかる。私の名はヴォルフガング=オットー=ファン=アルランメディエだ。以後、よろしく頼む。」
そして、呆気に取られた私の手を取り、その額を近付けた。
「おっ、お招きいただき、いただきまして、ありがとうございます。エリーチェ=コーでございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
シャルロッテは普通にしていたら大丈夫と言っていたが、普通にするのが難しい。
「シャルロッテ、暫くぶりだな。4年ほどになるか?」
「はい。この度は、お招きいただき、ありがとうございます。」
ローレンツが、さらにヴォルフガングに一言、二言、囁いた。
「グラン=ソアレム。貴君が、度々、王城騎士団第4部隊に助力してくれていることは、耳にしている。直接会えるのを楽しみにしていた。」
「は。わたっ、わたくしも、ヴォルフガング殿下にお会いできる日を待ち望んでおりました。幼少の折、殿下に助けていただいたこと、今も忘れておりません。」
「はて? 私が貴君を助けたと?」
「はい。カーザに住む親族の家に用事で出かける途中、魔物の襲撃にあい、逃げ遅れたところを、殿下に助けられました。」
「カーザ? あぁ、思い出した。そうか、あの時の子供が貴君か。それは驚いたな。」
グランが、ヴォルフガングを気にしていたのは、そういうことだったらしい。
「モードリン=ルリック。なかなか、評判が良いようだな。ルドルフ2世陛下御即位に際しあつらえた、守り刀に封じた魔石の細工、私も見させてもらったが、見事であった。」
「お褒めの言葉を賜り、ありがたき幸せにございます。」
「ドルファー=アルブレヒト。アルブレヒト工房は、王族・貴族にも、ひいきにしておる者が多い。今後とも、ますますの発展を期待している。」
「そのような勿体ないお言葉。工房の皆が喜びます。ご期待に添えますよう、一層、仕事に励みたいと心得ます。」
挨拶が済むと、テーブル席に着くように促された。
「全員が揃うまで、先に、茶を用意するので、くつろいで過ごされよ。」
ヴォルフガングはそう言ったが、上座に座ったエルリッヒは黙ったまま、私たちも、とてもくつろげる雰囲気ではなかった。




