調合52
シャルロッテとグラン、そして私は、早朝から、工房に集合した。
「平服って、こういうのでいいのか? 一応、マグダレスに、改まった時の服は、どうすりゃいいのか聞いてはみたんだが……。」
グランは、妙におしゃれな服を着ていた。
「それ、目上の人と会う時の服っていうより……。」
「やっぱ、ダメ? 参ったな、今からだと……。」
「今更、慌てても仕方ないですよ。それより、作法とか、まったく分からないんですけど。シャルロッテさんは、直接、お会いしたことがあるのですよね?」
「エリーチェちゃんは、普通にしてたら大丈夫だと思う。……グランは、言葉遣いがちょっとなぁ……。」
「や、俺だって……。いや、私だって、相手に応じた会話はできるぞ。うん、エルの口真似で乗り切れば……。」
「それだと、偉そう、になりませんか? 語尾に“です““ます”を付けた方が、いいと思います。」
「です。ます。……、それでいこう。いや、それでいこう、です。」
完全に、付け焼刃である。
平服で来いということは、あまり目立つな、ということであろう。私たち3人が、一緒に出掛けたとして、そう、不自然ではないはずだ。
結局、そのまま、錬金術師養成学校へと歩いていくことになった。
まだ、朝の早い時間帯であるが、顔見知りにも、ちらほら出会う。
「お? デートかい? グラン、両手に花じゃないか。」
近所に住む初老の男に声をかけられた。確か、ギルドの受付の家族だったはずだ。
「え? あぁ、そう、そうなんだ。」
グランは、ぎこちなく答えた。やっぱり、そういう服だったようだ。と、すると、私は、完全にお邪魔虫に見えるだろう。
「なんだグラン。付き添い付きか?」
ニヤニヤとした表情の、私の知らない男にも、声をかけられていた。
シャルロッテは、男を睨み、「邪魔しないでくれる?」と、短く牽制した。
まぁ、とてもではないが、これから王城に向かうようには見えない3人では、あった。
錬金術師養成学校では、アンジェリドだけではなく、緊張しきった表情のドルファーとモードリンが待っていた。
「では、参りましょう。」
えっと、このメンバーが集められたということは……。私は、またもや、背筋が寒くなるのを感じた。
特別な印もない、普通の箱型馬車が2台用意されていて、私たちは3人ずつに分かれて乗り込んだ。
私は、ドルファーとモードリンと同じ馬車だった。走り出した馬車の中で、私は、強張った顔の2人から、昨晩から今朝に至るまでの状況を聞きだした。
やはり、連絡は封書鳥によってもたらされたということだった。昨晩、まだ、それぞれが夕食を取る前に、それは、現れたという。
2人は、シャルロッテ同様、錬金術師養成学校を卒業しており、アンジェリドからの連絡自体には、さほど、驚きはなかったようだ。しかし、内容は、“明日の朝9つの刻に、学校へ、上客に対応する際の服装で来るように”とだけであり、具体的な要件は書かれていなかったという。
「他に誰を呼んでいるのか、も書かれてなかったわ。ここで、ドルファーに逢って、びっくりしたもの。」
「それは、こっちもだ。加えて、これから王城へ行くときた。ヤバいことになったんじゃ……。」
思い当たることは1つだ。
魔方陣判子計画。
グランは、詳細は知らないが、シャルロッテの工房に頻回に出入りしていることから、関係者と見做されてしまった可能性が高い。
あぁ、ヴォルフガング殿下の秘密の説明会かと思ってたら、とんでもないことになっちゃったよ。




