調合51
そして、アンジェリドは、工房へとやってきた。
「これは、何をしていたのですか?」
机の上の不揃いな餃子たちを見て、アンジェリドは、私に質問した。
「課題のレシピを完成させるための試作です。」
嘘ではない。これの中身の味付けに醤油を使っている。そして、もちろん、食べる際にも、醤油は必須だ。
「焼きたてが美味しいんです。直ぐに、持ってきますので、先生もこちらでお待ちください。」
私は、それ以上の追及を逃れるため、台所へと退散した。
水溶きメル粉を使って、なんとか、羽根つきにすることができた。そして、醤油の出番! 今度こそ、シャルロッテに、“調味料”として、認識してもらわないと。
……残りの醤油も、インクの材料にされちゃう。切なすぎるよ。
私は、焼きたて餃子を盛りつけた皿と、小皿、そして、醤油と酢を混ぜたタレをトレーに乗せて、部屋に運んだ。
本当は、お箸で食べたいところだが、ザラで使われているカトラリーに似た形状のものはなかった。羽根の部分にはナイフで切れ目を入れた。各自、フォークで取ってもらう。
「醤油を使ったタレ……、ソースみたいなものです。これを付けて食べます。」
説明をして、私は、餃子を1つ口にする。
うん。まぁまぁだね。羽根の部分がちょっと軽すぎかもしれないけど。あと、やっぱり醤油が美味しい! 餃子に醤油以外は考えられないよ。
「インクの材料と説明された方が、納得できる色では、ありますね。本当に、調味料として使うとは……。」
アンジェリドにも、醤油の色にケチが付けられた。
しかし、やはり3人は、ほとんどコメントもせず、黙々と餃子を食べ続けた。次の分、焼いてこないと……。
私は、台所に戻り、第2弾、第3弾と餃子を焼き上げ、シャルロッテに手伝ってもらって、部屋へと届けた。
結局、作った餃子は、すべて、4人のお腹の中に収まったのだった。
「課題が順調に進んでいるようで、何よりです。レシピの提出を楽しみにしていますよ。」
アンジェリドから、中間報告へのお褒めの言葉が出て、私は、ほっとした。
「では、明日のことについて、話しましょう。」
その言葉で、部屋の中は、再び緊張感に包まれた。
「すみません。誰にも話すなと言われていたことを、話したのは私です。先生にまで、ご迷惑がかかることになって、申し訳ございません。」
シャルロッテが頭を下げた。
「4年間、黙っていたことを、なぜ、今頃になって話したのですか? それも、この2人に。」
「2人には、いずれ話すつもりだったからです。殿下の承諾を得てから、のつもりでは、ありましたが。」
「あの、アンジェリド先生……。」
私は、怒られることを覚悟で、言葉を挿んだ。
「どうしました? エリーチェ。」
「先生も、御存知だったわけですよね。4年前から。その、……ヴォルフガング殿下が王宮図書館におられるということを。」
すると、アンジェリドは、意外なことを口にした。
「いいえ。4年前からではありません。私は、15年前から、ヴォルフガング殿下が王宮図書館に籠られたことを知っていました。」
シャルロッテも驚きのあまり、固まっていた。そして、次に口を開いたのは、グランだった。
「先生、では、ヴォルフガング殿下が、先代国王、……ノイヴィセント5世陛下から幽閉された、という噂は……。」
「まったくの出鱈目です。しかし、あえて、その噂を消すこともしませんでしたが。ここから先は、明日、ヴォルフガング殿下自らがお話になります。明日、私たちは、錬金術師養成学校より馬車で王城に向かいます。」
アンジェリドは、非公式の会であり、むしろ平服で臨むようにと言った。ただし、王城に向かうことは他言無用とも付け加えた。




