調合50
エルリッヒが、王宮図書館の奥に隠れているヴォルフガング殿下に会いに行くと宣言してから、2日が経った。
私は、学校図書館で調べた内容をシャルロッテに渡し、持ち帰った醤油も、渋々ながら、その半分をシャルロッテに提供した。
魔法インクの改良というより、もはや、新しい種類のインクを創っているに等しかった。
そして、職人街の肉屋に行き、変な要求をすると訝しげに見られながら、ミンチ肉を作ってもらったり、食材店でメル粉を多めに購入したり、キャベ人参などの野菜を購入したりしながら、課題のレシピ候補をあれこれ考えた。
1件の店先で、足が止まった。
「あの、それ、豆ですか?」
「あぁ、こいつは、フクド豆って豆さ。煮豆にして食べるんだ。」
フクド豆って、前に、シャルロッテさんが、勧められたけど買わなかった豆じゃない! これ、見た目、大豆にそっくりなんだけど……。
見た目そっくりだからといって、同じように使えるとは限らない。しかし、シャルロッテは、以前に、豆の種類が分かったら、錬金術で、醤油や味噌が作れるかもしれないと、言ったような気がする……。
私は、貴重な醤油がさらに減らされてしまうかもしれない、という危機に直面しているのだ。ダメ元である。フクド豆も購入した。
職人街での買い物を済ませて、工房へ戻ると、部屋にはグランがいた。
「こんにちは。グランさん。今、買い物に行っていたんです。お茶の支度、すぐにしますね。」
「あ、ロティが、準備してるよ。エリーチェちゃんの帰りを待ってたんだ。」
私が出掛けている間に、エルリッヒから封書鳥が届いたという。もちろん、特別便の方だ。
「エルは、ヴォルフガング殿下に会えたみたい。で、……呼び出しよ。」
何と、明日の午後、シャルロッテとグラン、そして私の3人は、王宮図書館へ招かれることになったという。
「えと、それは、お断り申し上げる訳には……。」
「3人の名が書かれてる。まぁ、エリーチェちゃんは、国王陛下の賓客でいらっしゃるから、断っても問題はないかも……、しれないわね。」
「服とか、どうしたらいいんだ? 俺は、是非、ヴォルフガング殿下にお会いしたい。が、そういう場に行けるようなもの、持ってねえ。」
3人で、頭を抱えていたところへ、新たに封書鳥が現れた。
「アンジェリド先生からだ。」
シャルロッテが、封を切って、手紙を読み始めた。
「先生が、来られるみたい。今から2時間後に。」
王宮図書館の主から、アンジェリドの下にも連絡が行ったらしい。そして、登城準備の相談のため、工房に向かうので、3人で待っているように、との内容だった。
「私は、ご遠慮申し上げる、という選択肢も無くなったわけですね。」
錬金術師の秘書は、仕事をさぼるわけにはいかなさそうだ。アンジェリドが登場した時点で、私の出席も決まった。
せっかくなので、私は、餃子を作って待つことにした。
メル粉を捏ね、野菜を切り刻み、ミンチ肉と野菜を混ぜ……。
「何、作ってるの?」
さすがの錬金術師も、急に決まった呼び出しとアンジェリド訪問を前に、落ち着かない様子だ。
そして、グランも同じように、所在なく、部屋をうろうろとしている。
餃子は、大勢で作るべし! 私は、2人に作り方を説明し、3人で餃子を作ることにした。
「う、何かネトネトする……。あれ? 閉じないよ。口が開いちゃう。」
「あぁぁ、破れたっ! 中身が……。」
2人とも、あまり、器用ではないらしい。結果、なかなか個性的な形の餃子が出来上がったのだった。




