調合49
シャルロッテが、ヴォルフガングに直接会ったのは、手紙が届いた5日後だったという。
「朝早くに、寮の私の部屋にアンジェリド先生が来られて、その日の午後の面会が決まったと言われたの。死ぬかと思った。」
「あ、アンジェリド先生にバレちゃったんですか?」
「錬金術師養成学校は王立でした。つまり、上の方、パンドラ組には伝わったみたい。その割には不思議と騒ぎにならなかったんだけど。」
目立つような迎えもなく、アンジェリドと2人で歩いて王城の城門まで行き、そこに指示を受けた者が待っていて、王宮図書館に連れていかれたという。
「その後、直接お会いしたことはないけど、アンジェリド先生を通じて連絡が来たり、特別便の封書鳥が来たりはあるのよね。はぁ。」
平民から王族へなど、通常の手紙のやり取りは不可能だ。テスト中の封書鳥であったからこそ、ヴォルフガング殿下のもとへ連絡できたらしい。
封書鳥が平民の間でも徐々に広まってきている現在は、特別便というさらに仕掛けのしてある封書鳥でないと、王族へは届かないのだという。
ヴォルフガングからの封書鳥には、必ず特別便用の封書鳥ワックスが同封されてくることから、偽者の可能性は、ほぼ無いと、シャルロッテは言った。
「特別便用のワックスは、使用量が記録され、かなり厳密に管理されていると聞いたぞ。勝手に王族の名で使われるのを防ぐために、そうしているという話だったが……。」
エルリッヒは、手を目を覆って、溜息をついた。
「分かった。王宮図書館だな。」
「エル。お前、一体、何者なんだ? 俺は、最初のころ、興味本位で平民街に遊びに来る貴族のお坊ちゃんだと思ってた。そういうのは、他にもいるし……。」
グランは、エルに尋ねた。
「中には勘違いして、乱暴を働くようなのもいるけど、エルは、まぁ、世間知らずなヤツだとは思ってたけど……。ただ、見ちまったからさ。」
「何をだ?」
「……王城敷地内で、護衛に囲まれてるところ。」
グランは、ソロの冒険者であるが、時に、王城騎士団魔物討伐隊の臨時応援募集に応募したりもしていて、王城敷地内に入る許可を貰っているという。
「もちろん、無条件じゃないし、入れるところは限定されてる。ただ、エルは、その限定された場所ではないところに、入っていった。そ、それに、殿下っ、ヴォルフガング殿下を呼び捨てにしてたろ! さっき。」
エルリッヒは、観念したように、両手を挙げてみせた。
「……はぁ。ますます、……まぁ仕方ないな。私は、私の名は、ルドルフ=エルリッヒ=ファン=アルランメディエだ。」
あっさりと、本当の名を名乗った。
「ルドルフ? 国王陛下と同じ名前なんですね。」
「それはそうだ。私が、即位したばかりの、若僧陛下だからな。」
「なんで、なんで国王が、こんなところ、あっ、いや、気楽に、外を出歩いてんだよ?」
「別に、気楽に、ではない。ただ、結局、全ては、兄上とその周りの者が決めるのだ。私が必要な時など、限られている。」
ルドルフ2世陛下こと、エルリッヒは、実際のところ、かなり参っているようだった。
「知らなくていい、知る必要がない、知ってはいけない……。ずっと、そう言われ続けてきたのだ。だが、平民街では違った。皆、私があまりに何も知らないと、驚いたり、呆れたりしていたが、知らなくてよい、とは言わなかった。グランも、ロティも……。」
「ロティ、話してくれて感謝する。私は、王宮図書館に行ってみる。……ヴォルフガングと話がしたい。15年前、何があったのか、知りたいのだ。」




