調合46
私は、部屋の方に、夕食の料理を運びながら、様子を窺ってみた。
何か、微妙な感じである。
「グランさん、昨夜はその……。すみませんでした。せっかく来ていただいたのに。」
私が謝ると、なぜか、エルリッヒが反応した。
「昨夜だと? そんなに頻回に、この工房に出入りしているのか?」
「もともと、俺とロティは幼馴染なんでね。錬金術の材料採取に街の外へ、2人だけで、出ることだってあるぜ。」
あららぁ~? そういう事ですか?
「あ、エルさんは、錬金術師養成学校の方にも伝手があったのですか? お醤油、確かに受け取りました。ありがとうございます。」
私は、エルリッヒが、醤油をアンジェリドを通じて届けてくれたと考えていたので、その場で礼を言った。しかし、
「醤油? いや、あれから確かに調べさせてはいるが……。どういうことだ? 受け取った?」
エルリッヒは、訳が分からないという反応を示した。
「はい。今日、課題を提出するため、アンジェリド先生の研究室を訪ねましたが、その時に、『とある方より、私への預かりものを託されている』と。」
「とある方?」
「アンジェリド先生は、誰であるかは、教えられないと言われました。ただ、私が醤油について話したのは、この部屋でだけ。そして聞いていたのはエルさんとシャルロッテさんのお2人だけです。」
「私ではない。……しかし、ロティでもない、ということなんだな?」
「私、インクの材料を持ち帰ってくれたのだと思ってたんだけど……」
「違います。醤油は調味料です。インクからは離れて下さい!」
う、シャルロッテさん、諦めてませんね。錬金術師、厄介なり……。
「ショウユ? 調味料? インク? お前ら、何やってるんだ、一体?」
グランが、さらに、訳が分からないという反応だ。
「えと、とりあえず、冷めちゃうんで、食べましょう。」
私は、一旦、話を打ち切った。
「なんだか、スープの色、茶色いぞ。」
「おい、ベーコンエッグに、変な茶色い液体がかかってる。ひょっとして油、古いの使ったのか?」
散々な言われようである。
「い、色は、ちょっと茶色くなりますが、おいしいんです! 食べてみてください!」
「ん、うん。これは……。」
シャルロッテが、真っ先に口を付けてくれた。そして、ほぼ、無言のまま、スプーンを運び続ける。
それを見たあとの2人も、同じように、スープを口にした。
こちらの世界では、なのか、単にザラの住人がそうなのか、はたまた、この3人だけなのか、食に関する語彙が少ない様子で、気に入っても、あまり反応は大きく出さない。
その代わり、黙ってひたすら食べる。食事のスピードが上がるのだ。
そして今夜の3人の反応は、成功を示していた。
「なるほど、これが醤油か。確かに旨いな。」
「最初、材料が古くて変色したのかと思ったが。エリーチェちゃん、食堂でも始めたらどうだ?」
「美味しい上に、インクの材料にも使えそう! 素晴らしいわ!」
どうやら、シャルロッテの頭の中において、醤油をインクから剥がすのには、失敗したようだ。




