調合42
私の動揺と困惑をよそに、怒涛の進捗状況報告会は終わった。
持ってきたサンプルはドルファー達に渡し、実際に、金属製の型を使って、型取りができるか試してもらうことになった。
「そっか、私、何でも錬金術でやっちゃおうっていうところがあるからなぁ。エリーチェちゃんの知っている知識も、勝手に組み込みこもうとしたけど、ちゃんと考えないとダメだね。よ~し、次、頑張るぞ!」
シャルロッテは、いつも通り、極めて前向きだ。
私たち2人は、アルブレヒト工房からギルドへと向かった。例の封書鳥用の印が完成し、進捗状況報告会終了後に、手渡されたのだ。キプリス鋼製で持ち手には美しくカットされた黒い石が嵌め込まれていた。ショールクリスタという名の石らしい。
印面は、私の名、エリーチェの文字を花文字にデザインしたもので、非常に細かい細工だ。
「これ、お値段をお聞きするのが怖いくらいの、細かさなんですけど。」
「必要経費、必要経費!」
シャルロッテは、ドルファーとモードリンに口止めをしてしまい、私はかかった費用を聞くことができなかった。
「困るんです。本当に。」
「気にしない。エリーチェちゃんの生活準備費用は、ちゃんと予算が通ったって報告受けてるし。今や、登録印は就職に際して必需品扱いなんだから。」
それって、国王陛下持ち、ひいては、税金持ちってことですか? すごく、心臓に悪い。
ギルドで、封書鳥用に印を登録するためには、申込書に必要事項を記入し、登録カードを作る必要があった。
「ギルドの登録証とは別なんですか?」
「封書鳥が使われるようになったのは、最近だから。錬金術が絡むものに関しては、登録方法も別。より厳密なんだ。ギルドの登録証制度の方は、この王国が興る前からずっと続いてる方法だからね。」
封書鳥用の登録カードは、あの職員証と同じように、魔法紙を剥がし、利き手の指紋を重ならないように順番に押し付ける方法だった。登録カードはギルドの方で管理される。
登録終了後、市場の方で買い物をして帰ることになった。
「あの、グランさんにスープをご馳走するっていう話なんですけど……。」
「……、そういうこと言ったね、私が。」
「難しい話は抜きで、私の就職祝いってことで来ていただくのはダメですか?」
「すっかり気を遣わせちゃってるよね。」
「エルさんにも来ていただきましょうか?」
「えっ、エ~ル~は、ちょっと難しいかな。あれで、結構、忙しい人だから……。」
シャルロッテは、視線を泳がせて、言い澱んだ。
そして、いつも通り、ソフ海老を購入するために、肉屋に寄った。
「あれ? ソフ海老の値段、今日は高くない?」
「あぁ、それね。最近、どうも、ソフ海老を大量に買ってるやつがいるみたいで、ちょっと品薄気味なんだ。」
「え~っ。そ~んなぁ。」
「いつも、買ってもらってるのに悪いね。だけど、サラダのトッピングぐらいにしか使わない食材を、なんだって大量に買うんだろう? 変だよなぁ。」
「……、ご馳走してやる必要なしね。エルめ、庶民の食べ物の恨み、舐めないでもらうわ……。」
「どうかしたんですか? シャルロッテさん。」
「え? あぁ、何でもないの。ほほほ。困るわねぇ、ホントに。」
私たちは、少し値段が高くなってしまったソフ海老を、それでも、台所で品切れしないように、少し多めに購入して帰った。




