調合41
「え~、では、魔方陣判子計画の進捗状況報告会を始めます。」
「基本形魔方陣のうち、火属性と木属性、火属性と風属性、火属性と土属性、火属性と無属性、水属性と木属性、水属性と風属性、水属性と土属性、水属性と無属性の8つは既にドルファーに渡したわ。残りの木属性と風属性、木属性と土属性、木属性と無属性、風属性と土属性、風属性と無属性、土属性と無属性、同属性同士の7つも今週中に届けます。これ、全部で15種類の印をまとめて入れる箱が必要になるわよね。それのデザイン原案もヴェヴィと一緒に考えてるの。是非見てちょうだい。」
「収納箱は、ミスリル製とオリハルコン製の2種を考えております。蓋のデザインはやはり、カドゥケイオンの杖でどうでしょうか? 完全受注生産となるでしょうから、嵌め込む石はご希望次第ということで。」
「先代国王ノイヴィセント5世陛下には献上しないと、それから、錬金術師養成学校のコーネル校長先生にも。」
「おいおい、まだ、中身が揃わないうちに、前のめり過ぎだって~の。」
「しかし、兄さん、これは、やはり、そこを目指すべきですよ。われわれアルブレヒト工房一丸となって進めなければ。」
「ドルファー親方だって、これは大仕事だって言ってたっす。新しい材料自体もとんでもねぇお宝だって……。」
「そうなのよ。ガタパは、凄いの。こんな材料が放置されてたなんて。調合に使う粉末材料の配合次第で弾力が変化するし、水を撥く性質は応用性が高いわ。防寒にも役立ちそうなの。」
我先に、言いたいことを言い始め、収拾がつかない。
「粉末ツサク結晶と粉末リッカ吸収炭の配合比率と加工調合ガタパの性質、あと耐性試験をした分は、エリーチェちゃんがまとめてくれたの。見てよ、見て!」
「おい、ガタパって火属性だったのか?」
「え、何よそれ。あの見た目で火属性って、詐欺じゃない。」
「あ、私も、あの青色に騙されたのよね。最初。」
「ど~りで、冷却剤には向かなかったわけですよね。」
「冷却剤?」
「うちの工房、金属細工が中心じゃないっすか。錬金術だけじゃなく、通常の鍛冶もやるんで暑いんすよ。この見た目爽やかな青色で、少しでも涼しくなるのを期待したんす。」
真逆の性質だったのね。残念でした。やっぱり、見た目で判断できないことも、あるんだね。
「ただね、エリーチェちゃん、小さな孔を開けるのに塩を使えって言ってたじゃない? ずっと調合してるんだけど、ぜんぜん上手くいかないのよ。」
シャルロッテは、サンプルを入れた壜の1つを取り出した。
「ツサク結晶とリッカ吸収炭の比率が上がると、加熱しなくても、硬くなるんで、塩を混ぜることができなかったの。金属の型に入れて加熱して固めるんだよね。」
「そうです。」
「だから、塩を混ぜられる柔らかさのギリギリを狙って、調合してるんだけど、ことごとく失敗してるのよね。」
「え? 塩を混ぜて調合?」
「何か違った?」
「塩を混ぜて、加熱なんです。塩は熱に強いので、加熱して全体が固まったあと、水で洗うと、塩の結晶が溶けて孔になるんです。」
私は、その瞬間、恐ろしいことに気が付いた。
そう、以前に、シャルロッテは、金の調合に成功したと言っていた。
私は、なんとなく、魔方陣をガスバーナーかアルコールランプのように勘違いしていたのではないか?
しかし、魔方陣は、違う属性の材料を合わせたり、同じ属性の材料を合わせたりの時、使い分けが要るのだ。そして、熱が出ない。調合に使った道具は熱くならないのだ。
魔方陣の力で、私の知らない合成反応が起こされる。
私の知っている『錬金術』と、この世界の『錬金術』は別物だ。
塩は、安定性が高いから反応しないってことを狙って使うはずだったのに、シャルロッテさんは、塩も無理やり反応させようとしちゃったんだ。
それって、“成功”してたらどうなっていたんだろう。まさか、街中の工房で常温核融合?
私は背筋が寒くなるのを感じた。
グランが言っていた。「錬金術っていうのも、可能性と同じくらい危険を持ってると考えてる。」
そして、コーネルの言葉が頭の中に蘇った。
「火について書かれた書物をいくら読んでも、実際に火に接したことがない者には、火の持つ熱も輝きも真には理解できぬ。しかし、本を読んで知識を得たことで、火について全てを知ったように勘違いしてしまう危険がある。」
「知識は、経験や実践とともに在らねばならぬ。錬金術は有用な学問であり技術であるが、危険を伴う毒薬でもあるのじゃ。錬金術に対する基本的な姿勢ができていない者が知識だけを貯め込むことは、好ましいことではない。」
私は、何か分かったつもりになって、元の世界の、しかも、中途半端な化学の知識と、こちらの世界の『錬金術』を一緒くたにしてしまっていたのだ。
私は、“混ぜるな、危険!”を実感した。




