調合39
妖精さんたちは、シャルロッテの依頼を受けて、ゲームしつつ、掃除と洗濯を手伝っているという。
彼らへの報酬は、シャルロッテが1週間分、枕の下に置いておくらしい。前払いだ。今週分もちゃんと受け取ったと言っていた。
そして、今週は、追加で、別の変な仕事も手伝ったという。
「ブニョブニョとグニュグニュとブニョーンとグニューンとブニョニョーンとグニュニューンを燃やしたり、水に入れたり、扇いで風を送ったり、日向に並べたりしたんだ。これは、1人じゃあ、できない仕事だったから、ゲームを中断して、みんなで力を合わせてやったよ。」
……何、やらせてんですか、シャルロッテさん。
今日1日だけで、いろいろと世界観が変わってしまった気がする。実際に、違う世界に来てしまったのだから当然なのかもしれないが。
風呂を使った後、緩めの部屋着にパーカーを羽織るという、ちぐはぐな格好で、調合室に散らばったメモを拾い集めながら、私は、妖精さんが、こういうメモは勝手に捨ててしまっていないことに、感心した。
グリュクリッヒは、自分たちは、あくまでプロ集団であると言っていた。
何かで、高級ホテルは、ごみ箱に捨てられていたものでも、数日間は保管するとかいう話、読んだな。でも、逆に、明らかに忘れ物があっても、宿泊者に、ホテル側からは連絡しないとか……。連絡されると困る人がいるから。プロって、難しいね。
私は、秘書に任命されたものの、まだ、自分がプロなどとは到底言えない。実態は素人。それ以下かもしれない。
アンジェリドは、何故、あんな話をしたのだろうか? シャルロッテを支え守れとは、どういうことなんだろう?
どう考えても、アンジェリド先生、只者じゃないし。シャルロッテさんが危機に陥ったら、バックにテーマ音楽付きで、登場して、さっさと解決しちゃいそうな勢いだよね。……、敵に廻したら、エライことになりそうだけど。
私は、拾い集めたメモを見ながら考える。
せめて、このメモ、書いた順が分かればなぁ。
私は、その時、思いついたことを確かめるため、メモの紙束を置き、シャルロッテがいつも座る位置へ行き、机の引き出しを開けた。中にまだ何も書かれていない紙が何枚も入っていた。私は、紙の裏側の隅に小さく番号を振っておくことにし、その場で50番まで書き込んだ。
メモは、やはり粉末材料の配合比率と加工調合ガタパの性質についてが大半だった。耐性試験的なこともやったみたいで、サンプルを燃やしたり、水に浸けたり、乾燥させたり、日光に当てたりした結果が、配合比率別に、別々の紙に記録されていた。
妖精さんたちに手伝わせた変な仕事って、これか。
更に、塩を混ぜて調合したが、調合がことごとく失敗と書かれている。“リッカ大先生、万歳!”と大書きされていた。
唐突な走り書きも、いくつかあった。“筒の中では乾かず、外に出たら乾き易い相反する性質”“粘り気があり過ぎると孔に詰まる”“変色の恐れ”などは、魔法インクの関連とみられる。
耐性試験の結果は、表にした方が見やすそうだったので、別の紙に、書き直した。
魔法インク関連のメモは、抜き出して、まとめる。
私は、今日のメモ整理を終えたところで、調合室を出た。
長椅子の上で、シャルロッテは寝息を立てていた。ここ数日で、生活のリズムが滅茶苦茶になっていたのだから、仕方がない。毛布を掛け直す。
「グラン。」
私は、シャルロッテの口元から零れた名に、ドキリとする。
シャルロッテの閉じられた目から、一筋、涙が流れた。
そうだ、スープを作ってご馳走するするって、約束したんだった。仲直りのきっかけにできないかな。
私は、アルブレヒト工房での会合後の時間調整をどうしようか、スケジュール管理の方法を、あれこれ考えながら、寝た。




