調合38
夕食を済ますと、シャルロッテは、そのまま調合室へと直行した。ここ数日は、ほとんど引き籠り状態だった。
明日のアルブレヒト工房での会合、ちゃんと、外へ連れ出すことができるだろうか?
「シャルロッテさん、明日は午後から、アルブレヒト工房で進捗報告会ですからね。」
「あ、うん。」
「早めにお風呂、使って下さいね。」
「う、何だっけ?」
「お、ふ、ろ、です。明日、着る服の方は大丈夫ですか?」
「え~と、あっ、ガタパの残りがぁ~。注文追加しないと。」
「服の準備……。って、もう、ガタパの残り、少なくなったんですか? 注文分、今朝、届いてたじゃないですか。」
「おっかしぃなぁ。ふわ~ぁ、そぉんなぁ~の、あったぁ~? ん、んぅ? ……ぐぅ。」
「ちょっと、こんなところで、寝落ちないで下さい! シャ、ル、ロッ、テぇ~さん! 起きてっ、起きてください!」
ダ~メだ、こりゃ。はぁ、まさか、秘書って、こういう仕事をする職業なの? もっと、なんか、カッコいい仕事だと思ってた。
2階の部屋まで、シャルロッテを背負って上がるのは、私の体格と体力が早々にギブアップすること確実なので、私がこちらの世界に連れてこられた直後に使われた、長椅子の方へ運ぶことにする。
シャルロッテは細身の体ではあるが、如何せん、私より背が高いのだ。
「あぁ、もぉ~。しっかりしてください。寝ますよ。服、緩めますからね。」
「う、うぅ~ん。」
「えっ、ちょっ、ちょっとぉ~、待って、ひゃぁ~っ、し、しがみ付かないでぇ~。」
なんとか、長椅子に横たわらせることに成功した時には、私の息は、すっかり上がっていた。床に座り込む。
秘書って、体力も必要なんだ。あぁ、次っ、次のアンジェリド先生の課題、走り込み、とかだったりして……。厳しい職業なのね、秘書。
私は、ふらふらと、立ち上がった。そして、さっさと風呂を使ってしまうことにし、一旦、2階の部屋に戻るため階段を上がった。
自室の前に来た時、部屋の中で、がさっという物音がしたのに気が付いた。
えっ、まさか、どっ、泥棒?
私は、声を潜め、ドアに耳をぴったりと付けて、中の様子を窺う。タンスの引き出しを動かす音がする。
「こぉ~の、どぉ~ろぼ~っ!」
私は、ドアを開けるなり声を限りに叫んだ。
「ひゃっ! どっ、泥棒だって~? どこに出た?」
部屋の中には、小さな子供がいて、タンスの引き出しに畳んだ洗濯物を入れていた。
「あ~あ、見つかっちゃった。これは、減点だな。今週はトップの成績だったのに……。」
「誰?」
「え、僕かい? 僕はグリュクリッヒ。この工房でお手伝いをしてるのさ。ところで、泥棒だって? どこに出たんだい?」
「まさかと思いますが、シャルロッテさんが言っていた妖精さんというのは……。」
「もちろん、僕たちのことさ。」
……たち。他にもいるんですか?
妖精さんは、私の膝丈くらいの背の高さで、グレーのスモックを着て、同じグレーの縁なし帽を被っていた。
「これは、お金を貰えるゲームなんだ。」
「ゲーム?」
「そう。人間のお手伝いを、いかに、こっそりやるかのゲーム。」
グリュクリッヒによると、妖精さんたちは、おもしろいことが好きなのだそうだ。そして、なんでも、おもしろいことにするらしい。
「人間にみつからないように、こっそり、お手伝いをするんだ。気付かれちゃうと、点数が下がるんだけど、留守中とか、人間が家にいない時にするのも点数が高くならない。人間がいるのに気が付かれないようにするのが高得点に繋がるんだ。ドキドキするしね。」
人間にいかに近い距離まで迫れるか、しかし、気が付かれないで仕事をクリアできるか、そして、仕事内容も音がするようなものは高得点という独自ルールで、手伝いを依頼した人間からの報酬の取り分を決めているという。
「もちろん、仕事自体もプロとして完璧なものでなけりゃ、ダメなんだ。スリル満点で、お金も貰えちゃう、すごく楽しいよ。」
妖精さんたちの価値観も、私とは、『違うもの』だった。




