調合36
『奇妙なる魔物』には、それほど詳しい情報は無かった。『マール探検記』は、エンリコ=マールという冒険者の洞窟探検の記録だったが、“ガタパライムが1匹、奥の方へと逃げだした。”“突然、3匹のガタパライムが現れた。”“その時、5匹のガタパライムに囲まれた。”などなど、道程で遭遇したガタパライムの数がやたら正確に記録されているだけだった。
『アルランメディエ王国300年の災害記録』には、ガタパライムが絡んだ水害記録が載っていた。
それは、王国29年初夏、ヤヴァ川の支流フール川の東岸側で、原因不明のガタパライムの異常発生が起き、その結果、付近の農村だけでなく、ヤヴァ川下流域にまで及ぶ広範囲に水害が生じた。というものだった。
“大量発生したガタパライムが川岸の地面を覆ってしまい、まるで敷石のようになった。ガタパライムで覆われた地面は水を吸わず、雨期に入った悪条件も重なり、水はまるで滑るように四方へ溢れた。下流側にも短時間で大量の雨水が流れヤヴァ川の両側の農地が水に浸かり、甚大な被害となった。”
ドルファー親方は、ガタパライムがあちこちに詰まって、水が溢れるって言ってたけど、これだと、ガタパライムに覆われて水を吸わなくなった地面の、保水力低下が水害の被害を大きくしたような感じに読めるなぁ。どっちにしても、大量発生はコワい。
『辺境の古代遺跡』には、クヌーム遺跡という古代遺跡に、ガタパライムと見られる魔物の描かれた壁画があるという内容が書かれていた。
壁画に描かれるって、何か神聖視されていたのかな? 古代の頃には、役に立っていたとか?
私は、ノートに記載内容を描き写したが、あまり情報が増えた気はしなかった。仕方なしに、『ゴンドラ大陸の魔物たち』の絵図も描き写す努力をしたが、単純な形のはずのガタパライムなのに、何か違ったものに変質した。
『違うもの』って、こういう意味じゃないよね。私の絵心って、残念過ぎる……。
自分のノートの上で、何か、丸っこいが、違うもの、に成り果てたガタパライムの絵図に、頭を抱えていると、残りの2冊が運ばれてきた。
『クヌーム遺跡』という大判の本と、『考古学と魔物』という本だった。
私は、『クヌーム遺跡』の表紙の蔵書印に職員証をかざす。
それは、ゴンドラ大陸の極北地方に近いクヌーム遺跡の遺跡発掘の記録と、出土品、遺構、壁画のスケッチの写しで構成されていた。
クヌーム遺跡に住んでいた古代の人たちは、ガタパライムの死骸を住居の壁や衣服などに貼り付けていたらしい。
“ガタパライムの死骸が貼り付けられた衣服残欠が出土しており、その残欠は、当時の色彩も留めていた”と書かれている。また、“ガタパライムの死骸の加工の様子と見られる壁画があり、成分不明の固まった付着物が付いたままの土器などが多量に出土した”という記述もあった。
死骸を貼り付ける? 何かの呪術? ちょっと、こういうの苦手かも……。
スケッチの写しが載ったページには、模様がはっきりと分かる衣服残片の絵や、どす黒い付着物がのっぺり付いていると分かる多数の土器の絵があった。
壁画の写し絵も載っていて、それは、先程、私のノートに描き写された残念な、違うもの、とは違い、ちゃんとガタパライムと分かる絵だった。
これ、ひょっとして、ガタパライムの飼育場? 家畜化してたってこと?
どうも、古代クヌームの人たちにとって、ガタパライムは利用価値のある魔物だったようだ。
『考古学と魔物』も広げる。
著者は、古代遺跡発掘調査を多数手がけたミケーナ=シュリーで、クヌーム遺跡について1章が割かれていた。
“古代クヌーム人は、極北地方に近い極寒の地で生活をするにあたり、防寒、凍結防止の技術を持っていた。初期の頃は、狩猟や落ちていた死骸の収集で得た魔物を貼りつけるなどの単純なものだったが、技術は高度化し、ある種の防水能を持つ樹液や魔物から採取した物質を加工し、ニスのように使っていた。”
え? この魔物って……。
続けて読む。
“古代クヌーム人は、自分たちに有用な魔物を利用することを考え、実践したことが伺える痕跡を多数残した。壁画には餌やりの様子と見られる絵があり、また、加工の様子を描いた壁画もあった。”
呪術じゃなくて、防寒、防水対策に利用してたんだ。 古代クヌーム人、すごい!
『考古学と魔物』の方も、スケッチの写しやら、図、地図、といった、写しの代行に依頼できない内容が多数だった。
誰か、コピー機を開発して! あ、シャルロッテさん……。ダメダメ、魔方陣判子計画で、もういっぱいだよ。
私は、心の中で、元の世界でコピー機を発明した誰かさんに対し、尊敬の念を飛ばした。




