調合33
「先程申し上げました通り、シャルロッテには他工房との共同の仕事が入りました。そのため、新しい調合の日程を優先したのです。」
なるべく動揺を見せないように答えながら、私は、次に何を質問されるのか、戦々恐々となった。
「結構です。」
アンジェリドは、質問を終了し、調合室から出るように言った。
執務室の方に戻り、アンジェリドは、私に椅子に座るよう指示すると、小さなベルを鳴らした。入口や調合室へのものとは別のドアが開き、茶の道具を乗せたワゴンが運び入れられた。
「あの、大変申し訳ないのですが、あまり、ゆっくりしていられないのです。」
私は慌てて、茶を辞退しようとした。
「エリーチェ、余裕の無いところを見せてはなりません。何時、如何なる時もです。」
きっぱりと言い切られ、私は、アンジェリドに従った。
今回は、アンジェリドが自身で2人分の茶を淹れた。そして、小さな焼き菓子を乗せた小皿と一緒に並べ、勧めてきた。
「いただきます。」
私は、観念して、茶を口にする。
「エリーチェ、あなたは、錬金術師にとって最も重要な資質とは、何だと思いますか?」
「資質ですか?」
いきなり、難しい質問を投げかけられ、私は、言葉に詰まる。
「事象を観察するための優れた目、物事を俯瞰して見ることのできる視点の高さ、構造を理解しさらに応用できる柔軟な頭脳、いずれもが、錬金術師として必要な能力として挙げられるでしょう。」
要するに、クビですか? まだ、正式採用にもなっていませんが……。
「しかし、最も重要な資質は、寝食を忘れ、錬金術にのめり込むことのできる、何と言うのか、そう、熱のようなものだと、私は考えるのです。」
「あ、ここ数日の間のシャルロッテさんが、正にそ~んな感じだったんですけど……。」
「エリーチェ、言葉遣いがおかしいです。減点しますよ。」
アンジェリドは、言葉とは裏腹に、懐かしそうな目をして言った。
「シャルロッテは、ここにいた時から、ずっとそうでした。あの子は、時に、まったく周りが見えなくなるのです。」
「先生は、それが資質だと考えられているのですか?」
「そうです。しかし、その貴重な資質は、周りとの摩擦を生むこともあるのです。」
「冒険者のグランさんから、私がシャルロッテの秘書になるのであれば、暴走を止める技術も必要だと言われました。」
「そう。しかし、その考え方は、シャルロッテの資質を潰しかねません。もちろん、物事には限度というものがありますが。」
「先生は、私に何を望んでおられるのですか?」
「エリーチェ、あなたはこことは違う世界から来たのですよね。こことは違う環境、こことは違う価値観、あなたは『違うもの』の存在を知っているのでしょう?」
「『違うもの』の存在?」
「そうです。そして、エリーチェ、あなたも『違うもの』なのです。残念ながら、人は、自分と違うものを受け入れるのが難しいのです。時に恐れ、時に憎みさえするのです。そして、錬金術への熱に浮かされるシャルロッテは、周りとは違ってしまうのです。」
アンジェリドは、私に、1枚のカードを手渡した。
「当校校内に出入りするために必要なものです。エリーチェ=コー、あなたを非常勤講師付き秘書として、シャルロッテ=ベロアの下に派遣します。あなたは、シャルロッテを支え、守ってください。」
「私が秘書になって、良いのですか?」
「もう一度、言いましょうか?」
「は、拝命いたします。」
私は、正式に錬金術師の秘書となった。




