調合32
アンジェリドからの宿題の提出期限が明日に迫っていた。
私は、棚から2つの薬壜を取り出し、念のため大きさの合う箱に入れた。
迷ったが、入学試験の日に着たサーモンピンク色のワンピースを着て、マントを付ける。
箱が横にならないように、鞄に入れて持ち、工房を後にした。
あらかじめアンジェリドには封書鳥を飛ばしておいた。封書鳥用の登録印はまだ完成しておらず、今回も指紋である。結構熱い。
アンジェリドからの封書鳥が運んできた返書に書かれた面会時間には、十分、間に合うはず。私は、しかし、早歩きに歩いた。
とにかく、片付けられそうなものは、早く片付けてしまいたかった。メモの整理が、追い付かないのだ。
お互いの進捗状況を確認するため、明日には、アルブレヒト工房に集合することが決まったのにもかかわらずだ。
さっさと終わらせないと。でも、次の課題が出されたらどうしよう。
私は、アンジェリドが多忙であることを祈った。
錬金術師養成学校の建物の正面口からホールに入り、受付のライラに挨拶する。
「こんにちは。アンジェリド先生とお約束をしております。課題の提出に参りました。」
ライラは、ゆっくりと頷き、
「お聞きしております。アンジェリドは研究室の方におりますので、お進みください。場所はお分かりですか?」
と、言った。研究室は2階で、校長室と同じ並びにあるという。
私は、ホールの大階段を2階へ上がった。
アンジェリドのネームプレートが付いた簡素な木のドアの前で、ノッカーを3回鳴らすと、中から、「どうぞ。」と、アンジェリドの声がする。
「失礼いたします。お約束いただいていたエリーチェ=コーです。課題の提出に参りました。」
ドアを開け、中に入る。提出物の入った鞄を、手前の机の上に置き、中から箱を倒さないようにゆっくりと出す。
「こんにちはエリーチェ。今日は1人で来たのですか?」
アンジェリドは、奥の方から、私の方へと歩きながら尋ねた。
「はい。私の課題ですから。それに、シャルロッテは只今、他工房との共同の仕事で新しい調合にかかりきりなんです。」
そうなった原因は、他ならぬ私のせいなのだが、そこは秘密だ。アンジェリドは、使い物にならない秘書など断じて認められないと言っていた。秘書候補自ら余計な仕事を増やしたことがバレたら、特製の特大雷が見舞われるだろう。
「では、課題を確認いたします。こちらへ来なさい。」
私は、箱を抱えて、アンジェリドの後に続いた。
研究室の手前の部屋は、普通の執務室であったが、奥に続く扉があり、調合室に繋がっていた。アンジェリドは自ら調合を行うようだ。
「回復水の方を見せてください。」
私は、箱を机の上に置き、回復水の入った薬壜を取り出して、アンジェリドの前に置いた。
アンジェリドは、ガラスの容器を2つ出してきた。薬壜の蓋を開け、片方の容器に中の液体を全て移す。
「量は足りていますね。」
そして、色見本の札を使って色調を確認し、ペンライトのようなもので光を当てたり、匂いを嗅いだりした。その後、スポイトを使って試験管に一部を移し、何かの試薬を滴下して変化を確認していた。
「ふふ。こうでなくてはね。やはり、シャルロッテです。」
と呟き、続いて、解毒水の方を見せるように言った。
アンジェリドは、解毒水の方も確認し終えると、私に空の新しい薬壜を2つ渡して、質問をした。
「回復水を調合するにあたり、ウサギ草はどのように、準備したのですか?」
「南の森に採取に行きました。前回、訪問させていただいた日の夜です。」
「理由は聞いていますか?」
「あの日は満月だったからです。満月の夜の月光を浴びたウサギ草の花芽が、高品質な回復水の調合に必要と習いました。」
「解毒水は、あなたが1人で調合しましたね。なぜ、シャルロッテに教わらなかったのですか?」
えっ。何で、分かったの?




