調合30
「エリーチェちゃんじゃないか?」
私は、食材を買うために職人通りへと向かう道の途中で、グランに声をかけられた。
「こんにちは、グランさん。」
「元気そうだね。宿題は進んでる?」
「回復水は完成しました。あと、解毒水の調合が残ってるんですが……。」
そう、あの魔方陣判子計画のために、解毒水の調合がストップしてしまったのだ。
シャルロッテは、多孔質ガタパと粘り気のある魔法インクの調合に夢中になってしまい、食事中ですら、会話にならない。
機械的に口に料理を運びながら、あぁとか、これならどうだぁ?とか呟いて、紙にメモをし続けている。
私は、自分のことなので、リッカ吸収炭について、初級教科書や調合室にあった本を調べてはいるのだが、入手方法が見つからないのだ。
「あの、グランさん。ひょっとして、リッカ吸収炭の採取場所をご存じではありませんか?」
「リッカ吸収炭だって? おいおい、大丈夫かよ? それなら、工房に沢山あるだろ。」
グランは吹き出し。呆れたように私を見た。
「まさか知らないのか? リッカ吸収炭。」
「その、まさかです。」
「あ~、リッカっていうのは人の名だ。錬金術やってる連中で知らない者はいないっていう有名人らしいぞ。失敗だらけで、貴重な材料をことごとく炭にしたっていう……。」
錬金術はまだまだ、発展途上の技術だ。調合の失敗は珍しくない。
「調合で失敗した時にできる炭化した材料を、伝説の錬金術師リッカの名を冠して、リッカ吸収炭って呼んでるんだよ。」
シャルロッテは、ここ2日ほど、ずっと多孔質ガタパと粘り気のある魔法インクの調合を繰り返しては失敗し、その失敗の結果、調合室には炭でいっぱいになった箱が2つはあった。
うそ、あれが、リッカ吸収炭なの?
私は、力が抜けてしゃがみ込んでしまった。
「大丈夫か?」
グランが慌てて、私の肩に手を置いた。
「あぁ、もう。ごめんなさい。なんだか気が抜けてしまいました。まさか、失敗でできる炭のことだとは……。」
「ロティのやつ、全然教えてないのか? 何やってるんだ。」
私はグランから差し出された手を取り、立ち上がった。
「大丈夫です。ちょっと、錬金術師の魂に火が付いちゃったみたいで。そもそもは私が、やっちゃったんです。」
「エリーチェちゃんがロティの秘書になるなら、暴走を止める技術も身に付けないとなぁ……。」
「コツを教えてくださいよ。」
「そんなのあったら、苦労しないって。」
私たちは、顔を見合わせて、堪えきれずに笑い出した。
グランは、急に真剣な表情になった。
「その、例の話、……事情ってやつについて、聞いたのか?」
「グランさんに話せなかったことですよ。私に話すなんて無理に決まってるじゃないですか。当事者の了解が必要なんだそうです。大丈夫ですよ。少し待ちましょう。」
「エリーチェちゃん、すげえなぁ。根性据わってるよ。俺なんか、右往左往するばっかりだ。」
「私は、右往左往できるほど、この世界に慣れていないだけですよ。まだ、このザラの街の半分も把握してないんですよ。」
「こんなこと言うのはズルいって分かってるんだが、ロティを頼む。エリーチェちゃんが望むと望まざるとに関わらず、あいつの秘書になってくれるのは、本当のところ、助かるんだ。」
私は、調合の宿題が終わったら、グランにスープを作ると約束し、別れた。




