調合29
ドルファーは、見習いにガタパと手袋を持ってくるよう指示した。
「実はな、討伐したガタパライムから採れるガタパを、工房で使えないか、ギルドから相談を受けてるんだ。」
大量発生するが、あまり使い道のないガタパしか採れないガタパライムだと、討伐の引き受け手が思うようには見つからないのだそうだ。
「レベルが上がると邪魔くさいだけで、報酬もわずか。採れるガタパが金にならないとなるとなぁ。雨期に大量発生されると詰まって、あちこち水が溢れる原因になるだろ。ギルドも困ってるらしい。」
見習いが、ガタパの入った箱を抱えて、部屋に入ってきた。
「手袋はこのサイズで大丈夫だと思います。どうぞ。」
私は、手渡された手袋をはめ、箱の中に手を伸ばした。中には、青い色の柔らかいゲル状の物質が入っていた。
「これ、加熱すると固まりませんか? 硫黄とか炭の粉を混ぜると安定するはずなんですが。」
「イオウ?」
「えっと、温泉水の匂いのもと? 温泉水の蒸気を急激に冷やすと黄色い結晶になって出てくる……。」
「あぁ、ツサク結晶のことか。」
「直接、ガタパを彫ることはできないと思います。金属でまず型を作って、そこに、硫黄…じゃなくてツサク結晶の粉や炭の粉を混ぜたガタパを入れて、加熱して固めるんです。」
「面白れぇこと考えたな。」
「あと、インクが通る孔を作るために、塩も混ぜたいんですよね。」
「インクが通る孔ですって?」
シャルロッテは、抱えてきたスケッチブックのようなものを差し出す。
「ここに、描いてみせてよ。その方が分かりやすいんじゃない?」
だから、絵、苦手なんですけど? そもそも判子にしたかったのは、絵心が無いからです。
手袋はずして、箱の縁に落ちないように置いてから、仕方なく、私は、紙に筒状のものを描く。下側が印面、そして筒の中にインクがしみ込んだスポンジが入ると説明しながら、図示する。
「印面の方に小さな孔を沢山あけて、わざとインクが漏れるように加工します。インクがしみ込んだスポンジは、インクが出なくなったら、詰め替えるんです。」
「それ、通常の魔法ペンのインクじゃ、すぐインクが無くなるぞ。もっと粘り気があるやつじゃないとダメじゃないか?」
「蓋も必要じゃない、これ?」
「必要です。きちんと蓋をしないと、インクが乾いてしまいますから。」
私が描いた、残念な落書きを囲んで、3人は、ああでもないこうでもないと、私を完全に置いてきぼりにした。
「じゃ、モードが印面の魔方陣を描いて、それを基に、俺が金型を作るってことだな。あと、筒と蓋の方もうちの工房でやらせてもらう。」
「ガタパで多孔質ガタパを調合するのは、私がやるね。あと、粘り気のある魔法インクも私。」
「ねぇ、筒と、蓋にデザイン性のある加工を施すのは? せっかくなら、美しくしないと……。」
そういえば、解毒水の調合、まだできていないんですが、材料の1つ、リッカ吸収炭は簡単に手に入るんでしょうか?
シャルロッテの興味は、もはや完全に、魔方陣判子計画に移ってしまい、私はかなり不安になった。
「そうだ、エリーチェ。あんた、封書鳥用の登録印はもう作ったのか? まだなら、うちの工房でどうだい? おぉ~い、手があいてるやつ、登録印の見本の図版持ってこい。」
「あら、登録印を作るなら、持ち手に嵌める加工石は、ルリック工房に任せてよ。あなたの瞳に合わせた黒がいいかしら。漆黒の美しい石がいろいろあるのよ。それとも、好きな色にする? ふふ、愛しい方の瞳の色にするのもありなのよ。」
何時の間にか商売人モードになった2人に囲まれて、私は、首をこくこくと上下に振るしかなかった。




