調合28
私は、完成した回復水を薬壜に移し替え、ラベルを貼り、保存用の棚に入れた。
シャルロッテは、何やら箱を開けて、中の材料を確認しているようだった。
「とりあえずはキプリス鋼で試作してもらおうか? アルブレヒト工房で相談しなくちゃね。あと、モードに頼まないと。」
シャルロッテぶつぶつ独り言を呟きながら、あちこちに封書鳥を飛ばしている。
「ふふふ。これはいけるわ。なんて素晴らしい!」
私は、ちょっと声をかけてよいのか、躊躇する。
そうこうしているうちに、封書鳥が次々とシャルロッテの元に飛んできた。
シャルロッテは、封を開け、中身を確認すると、「アルブレヒト工房に行くわよ。エリーチェちゃんも出掛ける準備をして!」と言った。
アルブレヒト工房は、職人通りにある金属細工を得意とする工房だという。ドルファーとデュラーの王国認定錬金術師の資格を持つ兄弟2人が中心で、かなり人気があるようだ。
シャルロッテはグレーの上下に着替えた。緑のマントを羽織り、革の鞄と、スケッチブックのようなものを抱えている。
私は、濃紺のワンピースに着替え、リュック型の鞄を背負う。マントは使いづらいので、今日は遠慮する。
「工房で、モードリンっていう私の同級生とも会うから、紹介するね。彼女、錬金術をデザインに取り込んで活躍中の宝石細工師なんだけど、とにかく器用なの。きれいな魔方陣を描いてもらえるわ。」
あ、魔方陣判子計画始動ですか?
「印の部分、ゴムで作れないですか? それだと、インクも内蔵して、連続的に押せる形にできると思うんです。」
「ゴム?」
「えっと、ゴムの木っていう木の樹液から作られる伸び縮みする素材です。」
「伸び縮みする素材? ガタパみたいな?」
「ガタパが分かりません。」
アルブレヒト工房に到着し、シャルロッテはドアを開けるなり、「連絡していたシャルロッテです。ドルファー親方おられますか? あと、ここにガタパは置いてない?」と中にいた見習いに声をかけた。
「奥にいます。あと、ルリック工房の工房長も到着されていますよ。えと、ガタパですか? あのブニョブニョするやつですよね。ガタパライムから採れるやつ。確かドルファー親方が何かに使えないかって実験してたと思いますが……。」
「ありがとう。」
シャルロッテは迷わず、奥へ進む。私も遅れないように続く。
「ガタパライムって木があるんですか?」
「ガタパライムは魔物だよ。あまり強くはないんだけど、やたらと跳ね回るの。あと、刀が通りにくいんで、大量発生すると厄介なんだよね。」
え~と、ひょっとして、RPGに出てくるアレみたいな?
私の頭の中で、某ゲーム内で流れるテーマ音楽が鳴り響いた。
「いきなりでごめんなさいね。ドルファー親方、モード。この子はエリーチェ=コー。私の秘書になる予定なの。」
「初めまして。エリーチェ=コーです。」
「ドルファー=アルブレヒトだ。この工房の職人で、経営もやっとる。そうか、あんた、シャルロッテの無茶振りに付き合わされるんだなぁ。まぁ、頑張んなよ。」
「モードリン=ルリックよ。よろしくね。」
簡単に挨拶が済むと、シャルロッテは、魔方陣判子計画を説明し始めた。
「職人やってる2人なら、どーってことないんだろうけど、きれいな円形に魔方陣を描くって、結構大変なのよ。で、印にしたら、性能も安定するし、時間も短縮、いいと思わない?」
「なるほどなぁ。そいつができたら、簡単な調合品なら、小規模の工房でも大量生産が可能になりそうだな。」
「でも、応用は効かないわよね。」
「まずは基本形で試作してみたいの。封書鳥で連絡したけど、とりあえずはキプリス鋼で試作をお願い。あと、さっき見習いの子に聞いたけど、ガタパで実験してるんだって? もしガタパが余分にあるんだったら、それでも試作してほしいんだ。」
「ガタパですって? あのブニョブニョのやつでしょ? どうやって彫るのよ?」
「あぁ、さっそく無茶振りかよ。エリーチェ、こんなのの秘書になったら、相当苦労するぞ。」
「これは、エリーチェのアイデアなの! あ、エリーチェちゃん、ガタパ見てみる?」
あの、ガタパを見せていただく前に、話、進めちゃってませんか?




