調合24
施療院に泊まった翌朝、私たちは、施療院パンと呼ばれるパンとコップ1杯の水という簡素な朝食を食べ、出発の準備をした。準備といっても、ただ、寝るだけの泊まりだったので、忘れ物がないか確認する程度だったが。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
今朝、施療院パンを配っていた女性が、私たちのところへ近づいてきた。修道女のような衣服を着ており、優しそうだが、一方で意志の強そうな感じがする。
「ティナ様。おはようございます。こちらは、エリーチェ=コー。今度、私の秘書になる予定です。」
シャルロッテが、私を紹介する。
「初めまして、エリーチェ=コーです。一晩、泊めていただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ初めまして、私は、この施療院の責任者を務めさせていただいているアルベルティーナ=エルリカ=ファナ=アルランメディエです。以後、よろしくお願いいたしますね。」
え、アルランメディエ?
「ティナ様。ご機嫌麗しく存じ上げます。いつもお世話になっております。」
グランの言葉遣いも、いつもと違う。
「ティナ様、何か、ご不審な点でも?」
「そうではないの。あれが、また、シャルロッテに迷惑をかけたようで……。」
「そんなことはございません。ただ、息抜きにお出でになられただけです。私も、楽しいひと時を過ごさせていただきました。」
「ありがとう、シャルロッテ。あれが、本心を打ち明けることのできる者が、そう多くないので、私も心配なのです。仕方がなかったとはいえ、兄上の為さりようは……。」
「もう、お決めになったことですから。それに、こちらも助けていただいているのです。とあることで、校長に掛け合ってくださったり……。」
「もしも、あなたを私の養女にすることができたなら……。」
シャルロッテの表情が明らかに変わった。
「とんでもないことでございます。それに、あの方と私は、そういう関係ではございません。」
シャルロッテは、声を潜めつつも、はっきりと言った。
施療院を出て、南門の開門を待つ間、グランはずっと黙ったままだったが、衛士が順番に身分証を確認し始めた時、シャルロッテに、「少し話がしたい。」と言った。
シャルロッテは、「分かった。」と短く返事した。
南門が開けられ、身分証の確認が終わった者は、ザラの街へと入っていく。私たちも続く。2人の間に漂うなんとも重苦しい空気に、私は、言葉が出ない。
結局、3人は無言のままで、工房の前に到着した。
工房のドアを開け、シャルロッテが促すと、グランは中に入った。私は、調合室に行き、採取用の籠ごとウサギ草を置いた。そして、台所に行き、手を洗ってから、コンロにニトロン岩をセットして湯を沸かし始めた。カップを出し、茶葉を確認している間の短い時間で湯は沸いてしまった。火を消す。
私は、こっそり部屋の中の様子を窺う。2人はまだ黙ったままだった。
意を決して、「お湯が沸いたので、お茶にしますね。」と声をかけたが、やはり、2人は黙っていた。
うっ、うう、何か重い。どうしよう。
「エリーチェちゃん。昨日の話だけど、本当に、ロティの秘書になるのか?」
なぜか、グランは、私の方に声をかけてきた。
「はい。アンジェリド先生が、そう決められたので……。」
「俺はさ、まず、それが気に入らないんだ。ロティが、いろいろ思うところがあるのは分かった。けど、やっぱり、やり過ぎじゃないか?」
「どういう意味よ。」
「学校に行くっていうのは、エリーチェちゃんから言い出した話だったよな。確か、エリーチェちゃんから、校長先生に、錬金術を学ぶことができるかどうかって尋ねてたし。」
「はい。それで、入学試験を受けることになったんです。……、不合格でしたが。」
「で、そっからの話。昨日も聞いたけど、ロティが非常勤講師になって、それでエリーチェちゃんが秘書になるって話に繋がったって言ってたけど、それ、本当に、エリーチェちゃんがやりたいこと?」
正直なところ、かなり、怒涛の展開というか……。流されてますね、私。
「いろんなことが、急に決まってしまって……。ちゃんと考えていなかったかもしれません。」
「ロティが、見て見ぬ振りができない、困ってる奴を放っておけない性格なのは、よく知ってるし、むしろ、俺も利用してるところがあるから、あまり偉そうに言うのもなんだけど、学校やその後ろにいる連中にいいようにされてないか? いつの間に、会いに来たんだよ? タイミング良過ぎるだろ。」
「……、それは。」
ん? 会いに来た? 誰の話をしてるんだろ?




