調合23
採取したウサギ草はふた抱えほどの量で、採取用の籠には少し余裕があった。
「ウサギ草以外は、採取しなくてよかったんですか?」
「今回、絶対に必要なのが、この満月の夜の月光を浴びたウサギ草だから、夜に来たけど、あまり長居するのもね……。」
その時、地面に生えているウサギ草の先端の花芽が急に伸びだした。そして、膨らんだ花芽が次々と、はじけるように開いていく。月光の差し込む空間のあちこちで、白い花が咲き乱れた。
「満月の夜、月光を浴びたウサギ草は魔力量が急激に増加するの。そして、魔力が一番多く含まれるのが、開花直前の花芽なんだよ。」
「せっかくだから、花の形をよく見てみなよ。なんでウサギ草なのか、分かるから。」
グランに促され、私は、再び近付いて、ウサギ草の白い花を見た。
上向きに大きく長い花弁が2枚、やや後ろに沿った形に伸びている。下向きには小さく短い3枚の花弁が付いている。なるほど、花の形がウサギの長い耳に似てるわけだ。
そして、月光に照らされた、白い花の群れは、ほの明るく美しい景色だった。
しかし、あまり長く、お花見気分に浸っているのわけにもいかない。
「出るぞ!」
グランの声で、私たちは帰り道についた。来た道を戻り、森を出てから、南門へ向けて街道を歩く。
「南門、明日の朝まで開かないですよね。」
「ああ、今夜は施療院に泊まることになる。」
施療院というのは、要するに病院だ。病院は街の城壁外にある。
「城壁の外にあるのは流行り病が、街中に広まるのを防ぐためさ。施療院には、閉門時間に間に合わなかった住民や、早く到着し過ぎた旅行者なんかを泊める棟があるんだ。」
「寝るだけなんで、すごく狭いんだけどね。」
知ってるということは、2人は、泊まったことがあるのだろう。
「時間が無かったから、今回、食べるものは用意できなかったんだよね。まぁ、魔物が寄ってくる危険もあるから、どっちにしろ、おいしいものは持ってこれないんだけど。」
「つまり、施療院パンなわけか。」
「今度、すごくおいしいスープを御馳走するから。ね、エリーチェちゃん、すごいんだから。」
すごいのは、私ではなく、ソフ海老です。
私たちは、南門の外側にある、施療院へ着いた。
施療院で、1人1個のパンとコップ1杯の水を貰い、小さなテーブルに着いて食べた。なかなか、歯応えのあるパンだった。
そして、その後、宿泊棟へ移動した。
「上下2つに積まれた箱が並んでて、その中に1人ずつ入って寝るんだけど。で、仲間内からは、棺桶宿って呼ばれてる。」
グランが、こっそりと教えてくれた。
あ、これ、カプセルホテルと一緒だ。
私は、どことなく懐かしい感じがして、そして、ちょっとだけ、胸がチクっとした。




