調合22
私たちは、ザラ城壁の南門でグランと待ち合わせた。
「今からって、エリーチェちゃんは初めて城壁外に出るのに、この時間からは、ないんじゃないか?」
グランは、シャルロッテの行動に納得がいかないようだった。
「今夜は満月だから。どうしても満月の夜の月光を浴びたウサギ草が欲しいのよ。」
「ロティの無茶は今に始まったわけじゃないけど、新人に対する気遣いは無いのかよ。」
「気遣いなら十分してるわよ。南の森に行くのに、ベテラン冒険者に同行してもらうんだもの。」
「南の森なら危険が少ないとしても、夜は別だぞ。」
「あの、すみません。私が、急遽、回復水の調合をしなければならなくなってしまったんです。それで材料のウサギ草が必要になったんです。」
南門の衛士が、困ったように、声をかけてきた。
「出るんですか? 出ないんですか? そろそろ閉門の時間なんですが……。」
「出ます。身分証の確認をお願いします。」
シャルロッテが身分証を見せ、私もギルド登録証を出して衛士に提示した。
グランは、見るからに不満顔ではあったが、やはり、ギルド登録証を提示した。
「シャルロッテさんの身分証は、ギルド登録証ではないみたいですね。」
「私のは、王国認定錬金術師の資格証だから。」
錬金術師として工房を開いたり、ギルドで調合の依頼を受けるなど仕事をするためには、王国認定錬金術師の資格が必要なのだそうだ。
「今までは、アルランメディエ王国内で錬金術師になるためには、錬金術師養成学校を卒業して王国認定試験を受けるしかなかったけど、エリーチェちゃんは、学校に入らず、私の秘書として錬金術を学ぶことになったでしょ。」
その言葉を聞いたグランが言った。
「ロティの秘書? 何だそれ。エリーチェちゃん、学校に入るんじゃなかったのかよ。」
そこで、私はまだ、グランに報告していなかったことを思い出した。
「グランさん、あの、応援していただいたのに、ごめんなさい。入学試験は不合格だったんです。」
南門を出て歩きながら、今日の話をした。
満月の光に照らされて、グランの複雑そうな表情が見える。
「たぶん、相当頑張らないと、王国認定試験の受験資格は与えてもらえない。もちろん、再来年度の錬金術師養成学校入学を目指してもいいんだけど。」
「ロティが焦ったって、仕方がないだろ。」
「でも、私のせいで、エリーチェちゃんは不合格になったんだもの……。」
「何を言っているんですか?」
「入学試験の問題、見せてもらったのよ。【問2】、できなかったんでしょ。私が完全に外したから……。」
シャルロッテの様子が、なんとなくおかしかったわけが分かった。
「学校には入学できなかったけれど、うまくいけば、アンジェリド先生に、このままずっと個人的に指導してもらえる可能性があるんだもの。」
調合に用いる材料には、いろいろな条件で、品質が大きく変わるものがあるのだという。今回の課題、実は、ウサギ草の品質で、随分と回復水のできが違ってくるのだそうだ。
「満月の夜の月光を浴びたウサギ草が、もっとも品質がいいの。アンジェリド先生に認めてもらうには、絶対、必要なのよ。」
「私が不合格になったのは、シャルロッテさんのせいじゃありませんよ。綴り方ができない生徒なんて、絶対、途中で脱落するにきまっているからです。でも、私も、足掻きますよ。高品質のウサギ草が採取できるよう、シャルロッテさんもグランさんも、ご協力お願いします。」
私は改めて、2人に依頼した。
「エリーチェちゃん自身が、やる気なら、仕方ないな。」
「ここが南の森の入口だ。昼間と違って、夜は魔物と遭遇する確率も上がるからな。気を付けろよ。」
月光で明るかった街道に比べ、さすがに森の中は暗い。シャルロッテは、ランプに灯をつけた。
「森の中の道を進んでいくと、途中に、ぽっかり丸く開けた空間になっているところに出るの。そこがウサギ草の群生地になっているんだ。」
なるほど、ウサギ草が森の中に生えているのに、月光を浴びることができるのは、そのためなんだ。
グラン、私、シャルロッテの順に並んで歩く。
しばらく行くと、言われた通り、月光が差し込む空間が見えた。そして、その地面には、月光を浴び、キラキラと輝く植物が生えていた。
「キラキラ光っているのがウサギ草よ。先端の方に花芽が付いているから、その部分だけを採取して。」
グランには見張り役となってもらい、シャルロッテと私で、ウサギ草を採取してまわった。
「これだけあれば、十分ね。そろそろ、始まるし……。」
1時間ほどして、シャルロッテが採取終了を告げた。




